“人類未到のお金持ち”イーロン・マスク、個人資産がトヨタ自動車の時価総額上回る:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)

[古田拓也ITmedia]

 世界一のお金持ちといえば、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が長らくその象徴といえる存在であった。そんなビル・ゲイツ氏は、今年4月に公表されたフォーブスの世界長者番付2021年版で4位に位置しており、「世界のお金持ち」の構図も随分と様変わりしたようだ。


史上初の3000億ドル(30兆円超え)の個人資産を持つに至ったテスラのイーロン・マスク氏(Tesla Forumより)

 ゲイツ氏の個人資産額は1240億ドルで、日本円換算では約14兆1601億円となっている。そんなゲイツ氏の資産を上回ったのが、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイヴィトン)のベルナール・アルノー氏(17兆9977億円)で3位、テスラ・モーターズのイーロン・マスク氏(17兆2143億円)で2位、そして1位がアマゾンのジェフ・ベゾス氏(20兆1801億円)だった。

 しかし、長者番付に名を連ねる企業トップはその資産評価額の大部分を現金などではなく、自身が保有する株式に依存している。そのため、このような長者番付の結果もここ数カ月の株価変動によって大きく構図が変化している。

 長者番付の中でも著名なゲイツ氏、マスク氏、ベゾス氏3名の中で、2位だったマスク氏の保有資産がここ数カ月でほぼ“倍増“し、30兆円を超えたのだ。


イーロン・マスク氏の個人資産は、トヨタ自動車やエクソンモービルの時価総額を超えた。ちなみに、日本で最も個人資産が大きいのはソフトバンクグループの孫正義氏

 現在、世界一のお金持ちはイーロン・マスク氏で3152億ドル、日本円にして35兆9279億円とぶっちぎりのトップだ。03年に創業されたテスラの時価総額は、わずか18年ほどで1兆2000億ドルまで成長。マスク氏自身は08年にCEOに就任しているため、CEO就任後から考えれば、たった13年で急激に成長したといえる。

 「人類未到の個人資産3000億ドル」領域に足を踏み入れたマスク氏。3000億ドルといえばアラブ首長国連邦やシンガポール、フィンランドといった世界上位25%の国々における国家予算に匹敵する規模だ。

 企業でたとえるならば、同じ自動車セクターのエクソンモービルが時価総額2700億ドルで、国内トップ時価総額のトヨタ自動車が2893億ドルとなっている。1人の起業家がトヨタ自動車やエクソンモービルを上回る資産を四半世紀かからずに築き上げることのできるのは、現代におけるビジネススピードの高速化を裏付ける。

最終資産を左右する持株比率

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最終資産を左右する持株比率

 さて、世界一のお金持ちはテスラのイーロン・マスクとなったわけだが、テスラの時価総額自体は、旧王者であるビル・ゲイツの率いるマイクロソフトには遠く及んでいない。

 マイクロソフトの時価総額は2.51兆ドルと、テスラの倍以上を誇る。次点でアップル(2.49兆ドル)、サウジアラビアの国営石油会社「サウジアラムコ」(2兆ドル)、Google運営の「アルファベット」(1.95兆ドル)、アマゾン(1.72兆ドル)と続き、テスラは1.2兆ドルで6位に位置している状況だ。


世界の企業時価総額ランキング

 会社の時価総額と個人資産のランキングに違いが見られる要因は、両者の「持株比率」にある。ゲイツ氏は現在、マイクロソフトの主要株主ランキング10位以内に入ってすらおらず、正確な持株比率が分からないほどになっている。少なくとも確かなのは、ゲイツ氏のマイクロソフト株式の持分比率は1.18%未満となっていることだ。会社の時価総額が高くても持株比率が低い結果、自社の株式を23%保有しているマスク氏にゲイツ氏はかなわなくなっているのだ。

 この「持株比率」は私たちのビジネスシーンにおいても気を払うべき要素のひとつである。例えば、創業期の資金調達については自己資金で足りない部分を、借入金で賄うかベンチャーキャピタルに出資してもらう代わりに株式を交付するかの二択となる。しかし、借入金による資金調達の場合、CEO個人に連帯保証をつけなければならないパターンも多く、リスクが大きくて失敗しても、個人の資産に影響がない、株式での資金調達を選択しやすい傾向にある。

 しかし、業態や予定する成長スピードによっては、借入金による資金調達を選択した方が、最終的に第三者へわたる株式の数量が減り、意思決定スピードやリターンの観点で有利となる。

創業者の影響力が社会問題を解決する?

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創業者の影響力が社会問題を解決する?

 オーナーの持株比率が高い企業として有名な、ウォンテッドリーの社長である仲暁子氏はゴールドマン・サックス証券を経て同社を創業したが、現在の持株比率は69.62%にもなる。同社の時価総額は188億円であるため、仲氏の個人資産は131億円という計算だ。

 他にも、中島瑞稀氏、杏奈氏の双子が手がけるスマホゲームのcolyは、なんと両者で90%の持株比率を維持したまま上場に漕ぎ着けたことが市場参加者の間で話題となった。瑞稀氏も仲氏と同様に投資銀行出身で、起業前はモルガン・スタンレーMUFG証券のIB部門に勤めていた。

 このように、株式実務の経験が豊富な金融業界出身のCEOが、高い持株比率を維持した状態で会社をスケールさせる判断に踏み切る例も増加している。このことからすれば、企業運営にあたって、株式での資金調達を安易に選択するのではなく、自社の業態などを勘案して適切な事業計画を練り、借入金による資金調達で十分ではないかを問うていく姿勢が必要となってくるだろう。

 ちなみに、マスク氏はWFP(国連世界食料計画)が、飢餓問題を解決する正しい方法を提示すれば総資産の2%に相当する60億ドル相当のテスラ株を売却し、国際的な飢餓対策へ寄付する旨をTwitterで表明している。

 ESGやSDGsといった持続可能性に近年注目が集まっているが、会社と創業者の資産に深い関連が生まれている現代においては、会社だけでなく創業者の社会問題に対する立ち振る舞いも注目されてくる要素であるといえるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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