「DXで逆に収益が減った」「成果をどう評価する?」 ――DX進展後の課題、中国企業の対処法とは?:アンケート調査結果に見る中国企業のDX推進トレンド

 DXがある程度進んだ後に出てくる課題の一つが成果をどう評価するかだ。


図1 DXの成果の評価基準を制定しているかどうか(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 中国企業ではDX実装の価値を定期的に評価することが一般的だ。しかし、企業規模が大きいほど定量的に評価することが困難だったり、短期的な業績にDXの成果が表れにくかったりする。そこでどのような評価基準にするかがキーポイントとなる。

 DXの成果の評価基準を構築しているかどうかを尋ねた質問に対するアンケート調査結果を見ると、「定性的評価基準と定量的評価基準を併用した評価体系」を採用している企業の比率は52.0%と最も多かった。ここからは、短期間で当初の期待ほどDXによる収益が上がらなかったり、あるいはDX実装によって逆に収益減を招いたりしても、「DXへの投資を減らさないことを容認する体制」が重要だと認識されていることがうかがえる。

 一部の中国企業では、業績だけでなく、下記のような複合的な評価軸を設定することで評価軸の多様化を図っている。

  • 管理的収益:DX技術(注1)を導入した新製品(実物)や新サービス、新ブランドといった「DX製品 」、生産及び管理のプロセスにおいて、DX技術を導入してインテリジェント化を図る「生産運営の知能化」「ユーザーサービスの敏しょう化」「産業体系の生態圏化(エコシステムの確立)」)
  • 経済的収益:売り上げ、利益、コストダウン、効率アップ
  • 社会的収益:社会貢献度、中央政府や地方政府の政策に呼応してDXを進め、成功事例を作ることで先行企業として手本となる「国家政策、地方政策の徹底化」

 前編で見たように企業がDX実装を進める動機はさまざまだが、「クライアント需要に対する的確なレスポンス」や「他社サービスとの差別化」など「競争力アップ」でくくれる項目が多い。「これまで実施されたDX実装が、企業の競争力をどのように向上させたか」を尋ねる質問への回答は以下のようになった。


図2 DX実装による競争力アップの成果(N=123)(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 「管理効率の向上」が50.4%と過半数を占めトップとなり、「顧客体験の改善」(23.6%)、「生産効率の向上」(13.0%)が続いた。前編のDX実装の動機についての回答と照らし合わせると、DX実装は企業が想定した通りの効果をもたらしたといえる。

DX実装、将来の展望は?

 中国企業におけるDX実装は今後どのように展開するのか。図3~5は将来の展望を占う上で参考になる調査結果だ。どの設問に対してもDX実装についてポジティブな回答が多い。

 企業責任者(企業経営者、幹部)はDX実装の成果をどのように評価しているのだろうか。


図3 企業責任者から見るDX実装成果の満足度(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 「比較的満足している」(53.7%)と「満足している」(24.4%)を合わせると78.1%となり、3分の2以上の企業責任者が成果をポジティブに評価していることが分かった。

 自社が所属する業界内で自社のDX実装はどの程度進んでいると認識しているかについて尋ねた質問に対する回答は以下のようになった。


図4 業界における自社DX実装レベルの認識(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 自社を「リーディングカンパニー」(先進企業)と認識している企業が半数以上(52.8%)に上った。

 自社のDX実装が成功すると考えるかどうかを尋ねる質問に対する回答は以下の通りだ。

 3分の2以上以上(67.5%)の企業が「必ず成功する」と答えた。

 上述のように、中国企業は企業文化にはDX実装の効果を左右する重要性があると認識している。前編で見たように、従来の企業文化を破壊して考え方を一新させることを覚悟してDX企業文化を定着させるよう工夫している企業も多い。

 連載3回目となる次回は「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書(2021年)」を元に「中国企業のDX実践」と「中国企業DX実装の10の方向性」を考察・分析する予定だ。

連載1回目はこちら中国企業の組織力を支える“3つの奥義” 

筆者紹介:周 逸 (矢野経済研究所)

2005年矢野経済信息諮詢(上海)入社。約300分野の合計約400件の調査案件を幅広く経験し、中日両国企業のビジネスマッチングも担当。xEVや自動車サプライチェーン、IT全般、商業施設および不動産、電子機械、化学素材などの調査を実施。ニッチな調査ニーズへの対応を得意とする。日本語学習歴は30年。

(注1)清華大学グローバル産業研究院は2018年から「中国DXパイオニア企業ランキング」と「中国企業におけるDX研究レポート」を年1回発表している。3回目の発表となる2021年版は、123社を対象として2021年9~11月の間に実施されたアンケート調査および個別ヒアリングの結果をまとめたものだ。調査に回答した企業のプロフィールはこちらにまとめている。

(注2)中国におけるDX技術とは、ビッグデータやクラウドコンピューティング、AI、IoT、5G、XR、ブロックチェーン、量子コンピューティングなどを指す。

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