リチウムイオン電池で発熱や発火が起きる要因を整理しよう:今こそ知りたい電池のあれこれ(2)(1/3 ページ) – MONOist
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リチウムイオン電池で発熱や発火が起きる要因を整理しよう:今こそ知りたい電池のあれこれ(2)(1/3 ページ)
小型電子機器やモバイルバッテリーの発火事故、ごみ収集車や集積場の火災、電気自動車からの出火など、リチウムイオン電池の普及に伴い、それに起因する発火・炎上はたびたび問題となっています。発熱、発火、爆発といった事故は用途を問わず大きな問題となりかねない事象です。今回は「リチウムイオン電池の異常発熱問題」について解説していきたいと思います。
航空機で、あるトラブルが多発したことを覚えていらっしゃるでしょうか。2013年1月7日、成田国際空港からのフライトを終えて米国ボストンのジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港で駐機していたJAL008便の機体内部のリチウムイオン電池が発火しました。
それから日を置かず、2013年1月16日、山口宇部空港発、東京国際空港行きのANA692便が香川県上空を飛行中に、電気室での不具合を検知して高松空港に緊急着陸するという出来事もありました。
これらのトラブルの共通点は、民間旅客機としてリチウムイオン電池を初めて採用した「ボーイング787」で起きたということです。米国連邦航空局はこれを受けて米国籍の同型機に対して運航の一時停止を命じ、世界各国の航空当局に対しても同様の措置をとるように求めたため、世界各国の運航中の機体全てが運航停止となる事態となりました。
「ボーイング787のバッテリー問題」とも呼ばれるこの出来事は、リチウムイオン電池の安全性に対して世間の注目が集まった事例の1つではないでしょうか。
小型電子機器やモバイルバッテリーの発火事故、ごみ収集車や集積場の火災、電気自動車からの出火など、リチウムイオン電池の普及に伴い、それに起因する発火・炎上はたびたび問題となっています。発熱、発火、爆発といった事故は用途を問わず大きな問題となりかねない事象です。
今回は「リチウムイオン電池の異常発熱問題」について解説していきたいと思います。
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その他の「今こそ知りたい電池のあれこれ」
外部衝撃によって起こる短絡
リチウムイオン電池の異常発熱の多くは、電池の「プラス」と「マイナス」が直接つながる「短絡(ショート)」が原因といえます。短絡すると瞬間的に大きな電流が流れるとともに激しい熱も発生します。リチウムイオン電池には可燃性の材料も使われているため、激しい発熱は同時に発火・爆発などにつながる危険性があるのです。
短絡の要因の中でも代表的なものは「外部衝撃」です。電池を落とす、何かが突き刺さる、形状が変わるほど押しつぶす、折り曲げるなど、電池の中の構造を破壊するような衝撃が加わることで、正極(プラス)と負極(マイナス)がつながり、短絡の状態が生じます。最近、ごみ収集車や集積場で発生する火災の多くも、一般ごみに混入したリチウムイオン電池が圧縮されることによるものだと考えられています。
このような「外部衝撃」以外にもリチウムイオン電池の異常発熱の要因は複数存在します。さらに、これら複数の要因が複合的に関与する場合もあるため、なかなか漏れなくダブりなく整理するのは難しいものですが、一例としてまとめてみると、図のようになります。
大きい要因は「過充電」「外部短絡」「内部短絡」の3つに分けられます。このうち「内部短絡」については先述の外部衝撃を含め、さらに細分化することができます。これら3つの大きな要因について、順番に考えていきます。
リチウムイオン電池で異常発熱が起きる主な要因(クリックして拡大)
短絡は電池の外でも中でも起きる
まずは「過充電」です。前回のコラムでも触れた通り、電池を満充電以上に充電することで正極材料の構造崩壊や電解液の分解とともに起こる問題です。また、後述する「リチウム金属析出」を引き起こす要因の1つともされています。これを防ぐためにも、リチウムイオン電池の充電はしっかりと安全が確認された設備や環境でのみ実施するようにしましょう。
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リチウムイオン電池で発熱や発火が起きる要因を整理しよう:今こそ知りたい電池のあれこれ(2)(2/3 ページ)
次に「外部短絡」です。これは図のように電池の外部でプラスとマイナスが直接つながってしまう状態のことです。電池を保管・廃棄する際には正極や負極の端子をむき出しにせず、テープを貼って絶縁処理し、他の電池や金属製品との混載、結露するような環境への放置などは避けるようにしましょう。
外部短絡のイメージ(クリックして拡大)
このような電池の外で生じる「外部短絡」とは異なり、電池の中で起こる短絡のことを「内部短絡」といいます。最初に挙げた外部衝撃による電池内部構造の破壊以外にも「セパレータ不良」「コンタミ」「金属析出」などが、その要因として考えられます。
セパレータは電池の正極と負極の間に挟むことで、両極の接触および短絡を防ぐ役割を担っている隔膜です。製造不良や長期使用に伴う劣化などによって、セパレータ本来の役割を損ねる状態=セパレータ不良に陥った場合、内部短絡が起こりえます。
次に「コンタミ」です。製造業ではおなじみの「コンタミネーション」(製造時異物混入)ですが、電池部材や製造装置などから電池の中に混入した異物がセパレータを突き破り、短絡を起こす可能性も考えられます。
電池の中で金属が析出する要因は
そして「金属析出」ですが、これはさらに「リチウム金属」が析出する場合と、それ以外の金属が析出する場合とに分けることができます。
リチウム以外の金属が析出する要因としては「コンタミ由来」「活物質由来」「過放電」がそれぞれ考えられます。例えば、コンタミした金属片がセパレータを破ることのないような非常に小さなものだったとしても、電池を使用しているうちにその不純物由来の析出物が大きく成長してしまうことがあります。また、製造時に金属コンタミをしていなかったとしても、活物質(電池の容量を担う電極材料)に使われている金属成分が原因となって析出してくる場合も考えられます。
さらに「過放電」も金属析出の原因となります。こちらも前回の解説の通り、過放電の状態では負極から銅が溶け出してくるため、それがやがて析出物となってしまう可能性が考えられます。
次に、金属析出の中でも「リチウム金属」の場合について考えていきます。勘違いされやすいですが、リチウムイオン電池は金属としての「リチウム」をそのまま電池内に用いることは基本的にはありません。あくまでも「リチウムイオン」(Li+)の形でのみ存在し、電池反応に寄与しています。しかし、条件によってはリチウム金属が電池内に析出してくる場合があります。
リチウム金属の析出は、電極の塗工ムラや積層ズレといった製造上の不良、電極の厚み、面積、組成といった設計上の問題に由来することもあれば、電解液劣化や、周辺温度、電池に流す電流値といった電池の使用環境に起因する場合もあります。リチウム金属析出における最大の要因は、少し硬い言い方をすれば「負極中のリチウムイオン濃度分布の不均一化」です。つまり、何らかの要因によって局所的にリチウムイオンが集まってしまうことで、そこから金属として析出しやすくなるのです。
(再掲)リチウムイオン電池で異常発熱が起きる主な要因(クリックして拡大)
製造上の不良や設計上の問題などは、実際に製品を使用するユーザー側では対処できない領域ですが、電解液劣化によって生じた分解物の電極表面への堆積、大電流による急速充電、低温環境下での運用などによっても、このイオン濃度分布の不均一化が起こりやすくなるため、メーカーの推奨仕様範囲を守り、電池に大きな負荷をかけない運用を心掛けることが大切です。
こういった異常発熱要因の中でも、電池の製造不良に関するものについては、安価な粗悪品が市場に流通するケースも見受けられはするものの、各社の品質管理向上の取り組みが進められている現状では大きな問題となりにくいでしょう。大部分の製品において製造品質自体は一定水準に達しており、過充電などを防ぐためのバッテリーマネジメント技術や電池の劣化を考慮し
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た運用方法といった要素の方がより大きく寄与すると考えられます。
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発火を防ぐだけでなく、被害を最小限に抑える対策も
冒頭で紹介した「ボーイング787のバッテリー問題」ではその後、国家運輸安全委員会(NTSB)による事故調査が行われました。NTSBは2014年9月下旬に公表した最終報告書の中で、リチウムイオン電池の内部短絡によって発煙に至ったと指摘しました。内部短絡そのものの原因については、コンタミや低温環境による金属析出がその可能性として挙げられたものの、電池が激しく損傷、炭化してしまったために原因の特定までは至らなかったとしています。
この事例から、リチウムイオン電池に起因する発火事故の多くは、事後検証による原因特定が困難であるということが伺えます。そのため、原因を特定し、「どのようにして問題の発生を防ぐか?」という視点ももちろん大切なのですが、万が一の事態の発生に備えた安全機構の設置や発生後の迅速な対応といった、「起こってしまった問題の被害をどのようにして最小限に抑えるか?」といった視点での対策も重要となります。
2019年3月、リチウムイオン電池の異常発熱問題に関する、ある訴訟が注目されました。ノートPCのバッテリーパックが発火し、やけどを負ったのは製品に欠陥があったためとして、製造元に対して製造物責任法(PL法)に基づく損害賠償を求めた訴訟です。判決で東京地裁はその欠陥を認め、損害賠償の支払いを命じたというものです。
この判決の中で裁判官は、事故後の調査で発火原因を特定できなかったものの使用方法自体は適正だったと指摘し、「発火が想定されないバッテリーパックが突然発火しており、通常有すべき安全性を欠いていたと推認できる」と述べています。
つまり、「原因を特定できなくてもPL法上の欠陥は認められ、賠償責任はある」との判決が下されたということであり、原因不明のままリコール・製品交換などを実施するだけでは、製造側の異常発熱問題発生後の対応としては不十分であるということです。
今後、電池搭載製品で異常発熱に起因する訴訟が起こった場合、この判決を踏襲される可能性は十分に考えられるため、製造・販売に携わる方々は、異常発熱やそれに付随する発火の問題について、より一層注意をするべきです。リコール・製品交換では事後対応として不十分である現状、製造側にはあらかじめ想定される問題を洗い出し、その対策となる安全機構を盛り込んだ製品設計が要求されているともいえます。
過去の事例や実機の検証から学んで被害を抑える
こういった対策を考えるために必要なのは「過去の事例」と「実機の検証」です。「過去の事例」についてはデータベースを活用することが有効です。例えば、日本で発生したさまざまな製品の事故やリコールの情報は製品評価技術基盤機構(NITE)が公式Webサイトにて公開しています。
そして、製品に施した対策が有効か、想定していない問題点がないかなど「実機の検証」をすることも大切です。しかし、そのような検証試験は危険を伴うこともあり、メーカー単独では実施が困難な場合も少なくありません。日本カーリットの危険性評価試験所では、製品の発火や爆発を伴うような試験でも安全に実施できる設備、試験環境をご提供しております。
繰り返しになりますが、リチウムイオン電池が普及する昨今、異常発熱およびそれに起因する発火事故は、ひとたび発生すれば非常に大きな問題となります。しかしその一方で、それらの多くは事後検証による原因特定が極めて困難です。電池を搭載した製品を製造するメーカー側は「過去の事例」と「実機の検証」を通し、その問題への対応を考える必要があるといえるでしょう。
また、製品を使用するユーザー側はメーカーが推奨する正しい運用方法を守り、必要以上に電池を酷使しないことが大切です。さらに、使い終えた電池は一般ごみに混ぜるのではなく適切な方法で処分するようにしましょう。
発火や爆発といった事象はどうしても目につきやすく、過度に危険な印象を抱きがちですが、電池は今や私たちの生活には欠かせない存在です。むやみに恐れるのではなく、適切な運用方法を守って上手に付き合っていきましょう。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 群馬工場 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html
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