デジタルツインで実現する「ソサエティDX」とは――NTTデータの研究開発から読み解く:Weekly Memo(1/2 ページ) – ITmedia エンタープライズ

デジタルツインで実現する「ソサエティDX」とは――NTTデータの研究開発から読み解く:Weekly Memo(1/2 ページ)

デジタルツインを活用して社会全体のDXを実現する――。NTTデータがこんな研究開発を進めている。その内容が興味深いので考察したい。

[松岡功,ITmedia]

 現実の空間とサイバー空間を組み合わせてさまざまな課題解決や予測分析、さらには新たなビジネスの創出が期待される「デジタルツイン」。ただ、実際にどうすればどのように活用できるかというと、まだ多くの人に理解されていないのが現状だろう。

 そんな中で、NTTデータが2022年3月15日にオンラインで開催した「NTTデータ R&Dフェスタ 2022」において「デジタルツインコンピューティングで社会を変革」と題したセミナーの内容が非常に興味深かったので、今回はそのポイントを紹介し、デジタルツインの可能性について考察したい。

NTTデータ 技術革新統括本部IOWN推進室長の吉田英嗣氏

キーワードは「サイバーファースト」と「デジタルツイン融合」

 セミナーで説明に立ったNTTデータ 技術革新統括本部IOWN推進室長の吉田英嗣氏は、まず図1を示しながら、DX(デジタルトランスフォーメーション)の現状について次のように話した。


図1 DXは個別の企業・業界から社会全体の取り組みへ(出典:「NTTデータ R&Dフェスタ 2022」セミナーの投影資料)

 「昨今、DXが注目を集めているが、実はその大半が個別の企業や業界の範囲でしかデータを活用していない。その価値も限られた範囲にとどまっている。これからは個別の企業や業界を越えてデータを相互に活用できるようにし、社会全体のDXを進めていかなければならない」(吉田氏)

 ポイントは、データの価値を限られた範囲でなく、社会全体で活用できるようにしていくことだ。同社ではこうした社会全体のDXに向けた取り組みを「ソサエティDX」と呼んでいる。そして、このソサエティDXのカギとなるのがデジタルツインだという。

 「デジタルツインは現実の空間をサイバー上に再現し、そこで現実ではできないシミュレーションを行うことによって未来を予測して現実へフィードバックし適切に対応できるようにする技術だ。そのサイクルを繰り返すことで、より質の高いサービスや施策を現実空間で展開していくことができるようになる」(図2)


図2 デジタルツインの概要(出典:「NTTデータ R&Dフェスタ 2022」セミナーの投影資料)

 こう説明した吉田氏は、デジタルツインにおいて同社として重要なコンセプトとなる2つのキーワードを挙げた。「サイバーファースト」と「デジタルツイン融合」である。同氏の説明を基に、この2つのキーワードの意味を以下に記しておく。

 サイバーファーストについては、一般的なデジタルツインならば現実の空間で収集したデータを基にサイバー空間を構築していくのに対し、サイバーファーストのデジタルツインでは、まず理想的な世界観や要求条件を「ビジョン」として明確化してサイバー空間で仮想的に組み上げていく。サイバー空間でそのシミュレーションを繰り返してデザインした仕組みを現実の空間に実装する。さらに、現実空間での動作結果をサイバー空間へリアルタイムにフィードバックすることで、常に改善し続けていくといった形だ(図3)。


図3 サイバーファーストの考え方(出典:「NTTデータ R&Dフェスタ 2022」セミナーの投影資料)

 このサイバーファーストの最大のメリットは、実際に行動する前に結果が分かることだ。しかもサイバー空間であれば、何度でも条件を変えて試行できるため、より低コストで短時間に適切な結果を得られるようになる。

 そして、このサイバーファーストを支えるのが、デジタルツイン融合という考え方だ。これは、構築したデジタルツインに別のデジタルツインを組み合わせることで、より高度なシミュレーションを実現することである。例えば、物流のデジタルツインに気象や交通状態のデジタルツインを組み合わせれば、より効率的な物流を見出せるようになるといった具合だ。

 こうしたサイバーファーストやデジタルツイン融合を推進することにより、ソサエティDXの実現につなげていきたいというのが、同社の目指すところである。

ソサエティDXを実現する「デジタルツインコンピューティング基盤とは

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デジタルツインで実現する「ソサエティDX」とは――NTTデータの研究開発から読み解く:Weekly Memo(2/2 ページ)

[松岡功ITmedia]

ソサエティDXを実現する「社会DTC基盤」構想とは

 では、ソサエティDXを推進するためには、どのような技術が必要なのか。吉田氏が紹介したのは、NTTが提唱する次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」(Innovative Optical and Wireless Network)である。

 同氏いわくIOWNは「NTTが得意とする光技術を核にして、ICTインフラのゲームチェンジを起こそうという技術構想」とのこと。その主要な技術として、「オールフォトニクスネットワーク」「次世代データハブ」、そして「デジタルツインコンピューティング(以下、DTC)」を挙げた。

 NTTデータは今、このIOWNによってソサエティDXを実現する「社会DTC基盤」の実現を目指している。吉田氏によると、社会DTC基盤の実現に向けては「デジタルツインデータの超大規模化」「オーナーシップが異なるデジタルツインデータの活用」「デジタルツイン同士の不整合・不統一」「複数のデジタルツインにわたる最適化」といった課題がある。これらを解決するために、IOWNの主要な技術を活用した「データ連携基盤技術」や「DTCフレームワーク技術」の開発を進めているという(図4)。


図4 ソサエティDXを実現する「社会DTC基盤」(出典:「NTTデータ R&Dフェスタ 2022」セミナーの投影資料)

 同氏は最後に、同社が手掛けている社会DTC基盤の適用事例を2つ紹介した。

 1つは、電力に関するさまざまなデータを収集・流通・分析・活用する「電力のデジタルツイン環境」だ。カーボンニュートラルの実現に向けて再生可能エネルギーなどの分散型エネルギーの情報流通基盤を構築しようというものである。「これを使うと、例えば、電力データによって在宅の傾向を分析したり、移動販売の需要を予測するといったデジタルツインを構築することができる」(吉田氏)(図5)。


図5 社会DTC基盤の適用事例「電力のデジタルツイン環境」(出典:「NTTデータ R&Dフェスタ 2022」セミナーの投影資料)

 もう1つは、デジタルツイン融合でサービスや業界の間をつないで「フードロスの削減」を目指した取り組みだ。

 同氏によると、現在、全国で年間600万トン以上のフードロスが発生し、深刻な社会課題となっている。これに対し、同社では建物単位でリアルタイムな人流の分析と予測を行うサービスを手掛けている。それに気象データや飲食店の来客実績データを使ってデジタルツイン化し、来客の来店や商品ニーズを予測することで仕入れ量を調整してフードロスの削減につなげていく構えだ。

 吉田氏は、「この取り組みを起点に、飲食店に限らず、フードサプライチェーン全体でデジタルツイン融合を行っていけば、社会全体のフードロス削減の実現につなげていけると考えている」と意欲を示した(図6)。


図6 社会DTC基盤の適用事例「フードロスの削減」(出典:「NTTデータ R&Dフェスタ 2022」セミナーの投影資料)

 NTTデータがデジタルツインの重要なコンセプトとして挙げる「サイバーファースト」と「デジタルツイン融合」は、スタンダード考え方になっていくのではないか。今後のソサエティDXの取り組みに注目していきたい。

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