北朝鮮、止まらぬ挑発 軍事緊張が1990年代に逆戻り

韓国の文大統領は南北融和を最大の成果と訴えてきた(15日、ソウル)=韓国大統領府提供・共同

【ソウル=恩地洋介】北朝鮮による相次ぐ韓国への挑発行動で、南北間の軍事緊張は1990年代の状況へと逆戻りした。2000年以降に進んだ南北融和は大きく後退する。挑発が続く見通しで、韓国側では強硬姿勢で応じるべきだとする声も出ている。

朝鮮人民軍総参謀部が発表した軍事行動計画によると、軍は開城と金剛山に連隊級の部隊と火力区分隊を展開する。2004年に開城工業団地が稼働する以前、開城にはソウルを狙う高射砲や装甲車部隊が配置されていた。金剛山近くには90年代まで軍港が置かれていた。

開城、金剛山の両地は南北が冷戦時代の対立から「和解」の時代へと入った融和の象徴だった。98年から10年間続いた韓国人の金剛山観光と、開城工業団地で得る労働者の賃金は、北朝鮮の重要な外貨収入源となった。

北朝鮮軍はさらに、軍事境界線付近の緊張緩和をうたった18年の軍事合意を事実上の白紙にする行動を予定している。境界線の南北に幅2キロメートルにわたって広がる非武装地帯(DMZ)内の監視所を復活させ、陸海の前線で部隊を増強し軍事訓練を再開するという。

海上の境界線である北方限界線(NLL)では、過去にも艦艇の侵犯に伴う衝突がたびたび起きている。前線の一部で、対韓国の「ビラ散布闘争」を展開するとも主張している。挑発行動の発端となった韓国の脱北者団体は、北朝鮮に近い江華島からのビラまきを予告しており、報復に出る可能性がある。

朝鮮労働党第1副部長の金与正(キム・ヨジョン)氏は17日付の談話で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を「根深い事大主義の根性に苦しみ自滅に走っている」と直接批判した。

文氏が15日に「対話で知恵を寄せ、ともに乗り越えたい」などと発言したことに「ずうずうしい詭弁(きべん)だ」などと反発。「信頼が根元まで崩れ嫌悪は極に達したのに、うわべだけの言葉で北南関係を反転できるのか」と強調した。

文氏と金正恩(キム・ジョンウン)委員長は18年4月と9月の会談で、北朝鮮の体制保障と経済協力をめざすと約束した。文氏は米朝の仲介役を自任したが、米国の反対を前に具体策を実行に移せなかった。

北朝鮮は軍の行動計画を実行に移しながら、一段と緊張を高める方針とみられる。朝鮮中央通信は17日の論評で「口を慎まなければ『ソウル火の海』説が再び浮上するかもしれない」と主張した。94年の南北実務協議で、北朝鮮の首席代表は韓国側に「戦争が起きれば、ソウルは火の海になる」と発言したことがある。

専門家の多くは、北朝鮮が南北関係を実際に破綻させる意思はないと見ている。独裁体制を苦しめている経済制裁が解かれるメドが立たないままでは、指導部はかえって窮地に追い込まれる恐れがあるからだ。韓国議会の過半数は、北朝鮮に融和的な革新勢力で占められており、政策を有利な方向に引き込む環境は整っている。

韓国側は、特使の派遣を打診し拒まれたことまで暴露され反発を強めた。大統領府の尹道漢(ユン・ドハン)国民疎通首席秘書官は17日に「無礼だ。常識外れの行為だ」と発表し、与党「共に民主党」の李海●(たまへんに贊)(イ・ヘチャン)代表も「北朝鮮の行動は度を超えた」と語った。

もっとも、南北融和を最大の成果と誇る文氏が、対話方針を改めることは考えにくい。文氏は17日、政権の外交安全保障の担当者を集めて対応を協議した。

文政権は今後、南北融和の理想と、安全保障の間で難しい判断を迫られる。夏の米韓合同軍事演習を実施するかどうかや、8月には米国が延長を望む日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の更新が問われる。在韓米軍の駐留経費問題も米国と交渉がまとまっていない。

Click to rate this post!
[Total: 0 Average: 0]

Leave a Reply