日本は完敗、中国の「最先端キャッシュレス」事情。米国が恐れる理由
9/25(金) 8:45配信
bizSPA!フレッシュ
世界では今、貿易、金融、ITの分野で米国と中国の対立が激化しています。米国トランプ政権は全米に1億人のユーザーがいる動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業売却を命令。中国最大のSNSアプリ「ウィーチャット」を運営するテンセント社とアメリカ人の取引を禁止する行政命令にも署名しました。
その背景にあるのは、「間違いなく世界一、発展している中国のキャッシュレス化に対する米国の苛立ちと焦りがある」と語るのは最近、新書『米中金融戦争 香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社新書)を上梓した金融アナリストの戸田裕大氏です。
中国のキャッシュレス経済は世界最先端
人口14億人のキャッシュレス大国・中国では、「仕付宝(zhi-fu-bao)」と「微信(wei-xin)」という2つの決済機能を持ったアプリの2大巨頭が君臨し、中国のみならず世界中で利用されています。日本では、それぞれ「アリペイ(Alipay)」「ウィーチャット(Wechat)」と呼ばれています。
「例えば、私が中国の上海から東南アジアに近い広州に出張に出かけるとき、財布を持っていかないこともあります。航空券および鉄道券の予約と支払い、ホテルの予約と支払い、コンビニエンスストアでの支払い、食事の精算・割り勘など、すべてこれらのアプリで行うことができるからです。中国では財布を持っているよりも、携帯電話と充電器を持っている方が重要なのです」
こう語るのは、コロナ禍前までは、為替のコンサルティングビジネスで中国全土を飛び回っていた戸田氏。キャッシュレス化の普及は、なにも北京、上海、広州といった大都市に限りません。最近、人権問題で世界的な注目を集める「新疆ウイグル自治区」などでもそれは同じ。
「ザクロや和田玉(緑色の石)、羊の串焼きなどが地元のお店の露天で売られているのですが、これらの決済も携帯電話とアプリで行います。移動のタクシーも、もちろんタクシーアプリで呼び、決済は自動で行われます」(戸田氏、以下同)と、中国全土にあまねく普及しているのです。
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コロナで「IT後進国ぶり」が明らかに
今回の新型コロナ感染症対策では、中国や韓国、台湾がIT技術を駆使して感染封じ込めに成功したのに比べ、いまだ保健所での超アナログな対応に終始する日本の「IT後進国ぶり」が明らかになりました。
9月に菅義偉内閣が発足し、早速、目玉の政策として、デジタル庁が新設されることになりました。
「日本の行政・郵便手続きが非合理的で、中国とは差をつけられていることを痛感しているのは、他でもない日本政府ということだと思います。それは、世界一のコロナ感染国・アメリカも同様。だからこそ、中国IT企業への締め付けが厳しくなっているという側面もあると思われます」
「デジタル人民元」が米ドル基軸通貨体制を脅かす
最近は、中国政府が発行予定といわれるデジタル人民元が話題になっています。すでにキャッシュレス化が世界で一番進んでいる中国において、デジタル人民元を発行する意図、それは一体なんなのでしょうか?
「実は、中国政府から公表されている内容は、そんなに多くありません。そのため、世間ではこれは米ドルの基軸通貨の位置を脅かすためのツール、すなわち人民元の国際化に向けた施策ではないか? などとも噂されています。
現金がデジタル人民元に変わると、偽札が流通しなくなります。中国では偽札が多く流通しており、偽札がなくなれば偽札による被害者が少なくなりますので、治安面と通貨の信用面から導入メリットがあります。
また、香港などへの人民元持ち出しが難しくなります。近年、香港をはじめ世界のさまざまな場所で人民元の両替を行うことが可能になっていますので、人民元国外持ち出し→両替→資産隠蔽と言うステップが物理的に可能となっていましたが、これを抑止する効果があります」
中国政府が狙っているのは、偽札流入の防止と、資産隠蔽の防止、そしてデジタル人民元を国内で使用することでノウハウを蓄積し、デジタル通貨が世界的な流れになった場合の先行者利益を総取りすること。そうなれば、中国にとって悲願といえる「人民元国際化」に寄与する可能性はあります。
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中国はアメリカの通貨覇権を崩せるか?
なぜ、中国は人民元国際化を狙っているのでしょうか。最大の理由は、米国の強さの根源である通貨覇権を一部奪回し、自国の経済成長をさらに一段と加速させるためと言われています。戸田氏は次のように解説します。
「米ドルは、米国が保有する、おそらく世界最大の既得権益です。世界中の投資家や企業が保有する通貨、それが米ドルです。そして、その余剰資産が米国の債券市場や株式市場に投下されると、米国企業の手元資産には大きな余裕ができます。そしてその潤沢な元手を活かして、世界中から優秀な人材を採用し、次々と新たなサービスや商品を作り出していく。それが米国の強さの源泉です」
中国は世界2位の経済大国であるにもかかわらず、決済通貨または保有資産としての中国元の人気度はドル、ユーロ、ポンド、日本円に次いで世界5位。やや物足りない数字ともいえます。理由は人民元には資本移動の制限がかけられているからです。
資本移動の制限とは、つまり人民元を自由に売買することの制限、自由に移動させることの制限です。中国に投資することは簡単にできるのですが、中国の国外に資金を持ちだそうとすると政府の介入がある、そういうルールの元で運営されているのです。
「中国人は、実は我々が考えているよりも至極現実的であり、中国にお金を置いておくよりも、シンガポールや香港、日本や米国にお金を置いておきたいと本気で考えています。こう言った中国人自身の資金逃避を食い止めるためにも、現在は資本移動の制限が設けられているのです。なんとかリスクを抑えつつ、人民元の国際化を進める手立てはないのか? そういうことを考えて手を打ってきた、それが中国の20年間だったのではないかと思います」
「資本移動制限の緩和」に踏み切れば中国バブルも
徐々に、段階的に、資本市場の自由化をすすめてきた中国ですが、もう時間の猶予は残されていないと戸田さんは見ています。それは中国の経常収支(他国との貿易やサービスの収支)の低迷が物語っています。
「中国を1つの企業として例えれば、数年前までは、世界の工場として大変に儲かっていました。ですが、近年の目覚ましい経済成長とともに、人件費は高騰し、もはや世界の工場としてのビジネスモデルは立ち行かなくなってきているのです」(戸田氏)
では、人民元国際化の成功の鍵はどこにあるでしょうか。
「やはり、資本移動の制限の緩和しかないでしょう。中国が、国民の資金逃避のリスクや国内でのバブル発生のリスクを負ってでも、勇気をもって、国際化に望めるかどうか、それに通貨覇権争いの行方はかかっています」
中国に関しては、「嫌中」的な見方が日本の中にあふれています。しかし、単に「中国は嫌い」といっているだけでは見落としてしまう世界の政治・経済の大きな転換点、それが米中対立です。今後の米中対立の深層や中国のすさまじいまでのIT、金融技術の発展を見過ごしていると、結局、また日本は、世界の大きな潮流から置いていかれることになるでしょう。
<TEXT/bizSPA!取材班>
bizSPA!フレッシュ 編集部
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