『半沢直樹』が問いかけたバンカーとしての正義 最終話は7年越しの大団円へ

9/28(月) 6:04配信

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『半沢直樹』 (c)TBS

 「3人まとめて1000倍返しだ!」と箕部(柄本明)と中野渡(北大路欣也)、大和田(香川照之)に宣言した半沢(堺雅人)だったが、内心は動揺を抑えきれなかった。もっとも信頼していた頭取に裏切られたという思い。それを救ったのは若き盟友たちだった。「あなたが言ったんですよ、『戦え』って。あれは嘘だったんですか?」。森山(賀来賢人)と瀬名(尾上松也)との掛かり稽古で、半沢は消えかけていた闘志を取り戻す。

【写真】ラスボスとして半沢直樹に立ちはだかった箕部

 『半沢直樹』(TBS系)最終話は “完結”という語がふさわしい内容。前話ラストの気迫みなぎるテンションから、壮絶なバトルが繰り広げられることも予想できたが、そこに至る過程はむしろ淡々としたものだった。

 中野渡が箕部に渡した書類には、伊勢志摩ステートから箕部へ資金が還流した証拠は含まれておらず、敵の懐に飛び込む中野渡の計略だった。逆転の糸口を探す半沢は、笠松(児嶋一哉)を通じて白井(江口のりこ)に箕部の不正を知らせる。ここで大きな仕事をしたのが半沢の妻・花(上戸彩)だった。第6話で、元人気キャスターである白井のサインを半沢にリクエストしていた花。ドラマ後半ではやや影が薄かったが、社宅を訪れた白井に桔梗の花を贈り、「この国のことをお願いします」と声をかける。桔梗の花言葉は「誠実」で、白井に政治家を志した原点を思い起こさせた。

 普段と違う夫の姿を見て、花は「銀行員だけが仕事じゃない」「必死に尽くしてきた銀行にそれもで要らないって言われるなら、こっちから辞表叩きつけてやんなさいよ」「クソ上司なんかぶっ飛ばせ!」と半沢の思いを代弁。あらためて、最後に信じられるのは家族であることを伝えていた。

 もう1人、最終話で光が当たったのが中野渡だ。鋭い眼光で東京中央銀行の舵取りを一身に担ってきた中野渡が、本当のところ何を考えていたかは、これまであまり明らかにされてこなかった。前作最終話での半沢の出向と大和田を役員にとどめた理由、行内融和に腐心してきたこと。中野渡を突き動かしてきたのは、先輩の牧野(山本亨)を失った後悔と、後に続く若者に正しい道を示すという思いだった。

 「いま自分が正しいと信じる選択をしなければならない」と語る中野渡の信念は、痛みを他人に押し付けず、バンカーとしての責任を果たそうとする半沢と深いところで響き合っている。半沢に向けられた「君はいずれ頭取になる男だ」という言葉は、中野渡の偽らざる思いだろう。

 「バンカーとしての正義」ということで言えば、大和田が半沢のことをどう考えていたかも興味深かった。半沢ネジへの融資を打ち切り、父・慎之助(笑福亭鶴瓶)が自殺する原因を作った大和田は、その判断について「間違ったことはしていない」と言い切る。当然、その姿勢は半沢と衝突するが、大和田は「お前の正義を貫くためには上に立つしかない」と半沢に告げる。

 中野渡と大和田は、それぞれ異なる理由から、半沢に東京中央銀行の未来を託す。退職届の紙吹雪を降らし、「沈没」「死んでも嫌だね!」「おしまいです」とバズワードを言い直して去った大和田。半沢のカウンターとして花道を飾った大和田のその後は、ぜひスピンオフでお願いしたい。

 前作から7年。最後は全編を通じた伏線も回収され、物語の壮大な円環が閉じた。『半沢直樹』が残した一つのメッセージに、ツケは払わなければならないということがある。「倍返し」も元々は契約の公平性を保つ制度であり、誰も過去の所業からは逃れられない。半沢も例外ではなく、旧T(東京第一銀行)の不正融資を公表した後には、信用失墜した銀行の再建が待ち受けている。結局のところ、仕事をするということは過去と誠実に向き合うことなのかもしれず、それが未来につながる最短距離なのだと教えてくれる。

石河コウヘイ

最終更新:9/28(月) 6:04

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