英市民、物流不安で買い占め EU交渉難航に変異種追い打ち
利用客の姿がほとんどなくなった英ヒースロー空港=21日(ゲッティ=共同)
【ロンドン=板東和正】新型コロナウイルスの変異種が流行している英国で、欧州連合(EU)からの食料品や日用品の供給が減少することへの懸念が強まっている。英仏間の大動脈、ドーバー海峡の封鎖は一部解除されたものの、人々の不安は消えず、各地で買い占めが起きている。EUとの自由貿易協定(FTA)をめぐる交渉が難航しているところに変異種の問題が重なり、英国の物流は「二重苦」に見舞われている形だ。
22日午後、ロンドン中心部にある複数のスーパーでは一部の生鮮食品やトイレットペーパーなどが売り切れていた。客の数は先月とあまり変わらないが、食料品などを大量に購入する客の姿が目立った。男性店員(43)は「クリスマス直前の買い込みと変異種による影響が重なった。食料品を買い込む客は明らかに増えた」と話す。
英メディアなどによると、22日にはロンドンだけでなく国内各地で買い占めに奔走する人々がみられた。開店前の午前5時からスーパーの入り口に客の列ができ、数時間で食料品の棚が空になった店もあった。
英スーパー最大手テスコは同日、卵や米、せっけん、トイレットペーパーなどについて、購入を1人3点までに制限した。しかし、ロンドンの自営業、ローラ・サイムさん(45)は「物流混乱への不安は解消できていない。買い占めを完全に止めるのは難しいだろう」と話した。サイムさん自身も21日から、市内のスーパーで年末年始用の食料品をまとめて買い込んだという。
フランス政府は21日、コロナ変異種の流行を受けて英国からの入国禁止を発動した。ドーバー海峡の英側にあるドーバー港周辺では、22日夜時点で出国を待つトラック約3千台が列をなす事態となり、英国民は物不足への不安を強めた。
仏政府は23日から、PCR検査での陰性を条件にEU市民の入国を認めた。このため事態は改善に向かうと期待されるが、サイムさんは「楽観できない」と表情を硬くする。
英国では変異種の問題が深刻化する前から、EUとのFTA交渉難航に伴って市民の買いだめや企業による在庫積み増しが起きていた。交渉が決裂すれば、英EU間では来年1月から関税が復活し、国境での煩雑な通関手続きや大渋滞によって物流に支障が出ると予想されるためだ。コロナ変異種の問題はこれに追い打ちをかけた。
FTA交渉が決裂した場合の物流の混乱は「数カ月間続く」(輸送業者)との見方もある。英市民の一人は「食料をため込まないと心が休まらない」と語っており、当面、人々の不安は収まりそうにない。