「空飛ぶクルマ」実現へ活発化 渋滞回避・離島の移動・災害時の物資輸送など
1/1(金) 12:16配信
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都市部における効率的な移動を支援する
電動垂直離着陸型無操縦者航空機。通称「空飛ぶ車」の実現に向けた動きが活発になっている。日本では、2018年に政府が「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、官民を挙げた取り組みを展開中だ。経済産業省と国土交通省は23年の事業開始、30年の本格普及に向けたロードマップを示している。空飛ぶ車は、交通渋滞を避けた都市部での通勤や通学、離島や中山間部での新しい移動手段、そして災害時の緊急物資輸送など、その活用領域は多岐に渡る。世界を見渡すと次世代モビリティのスタートアップ企業のみならず、既存の自動車メーカーや航空機メーカーも巻き込み、グローバルで研究開発が行われている状況だ。空飛ぶ車の“離陸”が社会課題の解決につながると注目されている。
課題は山積するが
空飛ぶ車の特徴は、電動化と完全自律の自動操縦、垂直離着陸できることにある。少人数乗車を想定した機体が大半だが、中にはドローンに複数人が乗れるような大型タイプや、折り畳み式プロペラを搭載して通常時はタイヤで道路を走行できるタイプなど、多様な機体が開発されている。
空飛ぶ車は、身近で手軽な空の移動手段としての実用化が期待されている。一方で、機体開発における技術的課題はもとより、法整備、安全性の確保、社会受容性の醸成など、クリアすべき課題が少なくないのも実情だ。
それでも社会課題の解決につながる新しいモビリティを創出しようと、国も側面支援に乗り出している。機体の安全性や技能証明の基準の制度整備、電動推進や自動飛行の技術開発などが必要になるため、経済産業省と国土交通省は、18年8月から空の移動革命に向けた官民協議会で議論を重ねてきた。同年12月20日には政府と事業者が一丸となって、世界で初めて空飛ぶ車の実現に向けたロードマップを取りまとめている。
ロードマップは、官民が取り組んでいくべき技術開発や制度整備などについてまとめたもの。国は「日本における新しいサービスとして発展させていくためには、『民』の将来構造や技術開発をベースに、『官』が民間の取り組みを適宜支援し、社会に受容されるルールづくりなどを整合的に進めていくことが重要」と指摘。空飛ぶ車の具現化に向け、「事業者による利活用の目標」「制度や体制の整備」「機体や技術の開発」の3領域で今後の工程を示した。
事業者による利活用の目標としては、19年から試験飛行や実証実験などを行い、20年代半ば、特に23年を目標に事業をスタートさせ、30年代から実用化をさらに拡大させる目標を掲げている。事業ベースとしては、まずは物の移動から開始する。地方での人の移動、都市部での人の移動と段階を踏んで実用化を目指す。これらの過程において、安全や騒音、環境への影響など、空飛ぶ車が社会に受容される水準を達成する。
制度や体制の整備については、まず試験飛行の許可や離着陸場所、空域の調整、整備を行う。その上で、運送、使用事業の制度や技能証明、機体の安全性の基準などを整備する。技能証明では、地上からの遠隔操作、機上やシステムによる高度な自動飛行など技術開発に応じた制度を整備し、型式証明でも技術開発に応じた安全性基準、審査方法を構築する。
離着陸場所や空域、電波の調整、整備については、新たなビジネスモデルに応じたヘリポートの確保など、継続的に離着陸できる場所の確保を目指す。同時に、空の交通ルールの検討にも入る。
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最終更新:1/1(金) 12:16
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海外勢が開発先行
機体や技術の開発については、ハードとソフトの両面で電動で人が乗ることができる機体を実現させる。試作機の開発においては、航空機と同レベルの安全性や信頼性の確保を目指す。安全性と信頼性を確保するとともに、それを証明する技術を開発するほか、自動飛行を可能にする運行管理を行うための機上・地上システムの技術開発を進める。
また、事業化に当たり必要な航続距離や静粛性を確保するための技術開発にも力を入れる。その上で、多数機の運航管理や衝突回避など、高度な自動飛行を実現させる計画だ。
空飛ぶ車の開発では海外勢が先行する。日系企業は、協業や提携という形で海外勢と手を組み、攻勢をかけている状況だ。米ベル・ヘリコプター・テキストロンは、ラスベガスで開催されたIT見本市「CES2019」で大型eVTOL(電動垂直離着陸機)「ネクサス」を発表し、空飛ぶクルマ事業に本格参入した。同社はヘリコプターやオスプレイの製造を手掛けている。ネクサスは、6つの電動モーターで複数の回転翼を回転させて垂直離着陸をする小型航空機で、ドローンと電気自動車(EV)の技術を融合した。
日本市場での展開もすでに視野に入れており、20年には日本航空(JAL)、住友商事との業務提携を発表。日本、アジアでの空飛ぶ車を使ったサービスの事業化に向けた調査やインフラ構築を検討し、20年代半ばの実現を目指す。
空飛ぶ車を巡る動きは、完成車メーカーでも活発になっている。アウディは、18年に空飛ぶタクシーの試験運用を目的とする新プロジェクト「アーバンエアモビリティプロジェクト」を発表した。インゴルシュタット市でのエアタクシーの試験運用のモデルケース構築を目的に掲げた。
トヨタ自動車は昨年1月、電動垂直離着陸機(eVTOL)を手がける米ジョビー・アビエーションに3億9400万ドル(約400億円)を出資、協業したと発表。eVTOLに必要な新素材、コネクテッドなどが次世代自動車の技術との共通点も多いことから、自動車との相乗効果を生かした新たなモビリティ事業への発展を見込む。
協業では、トヨタの開発やアフターサービス、トヨタ生産方式(TPS)で培った強みを生かし、社会的ニーズの高まりが予想される空のモビリティ事業の早期実現に向けた取り組みを進めていく方針だ。
また米ジョビーは、昨年12月、ウーバーの空飛ぶタクシー事業を買収すると発表。既存事業と統合し、早期の実用化を目指す。
国内の空飛ぶ車市場は、スタートアップに大手企業が資金や技術で支援する構図が広がる。空飛ぶ車を開発する有志団体CARTIVATOR(カーティベーター、中村翼・福澤知浩共同代表)を運営するカーティベーターリソースマネジメント(西田基紀代表理事)には、国内100社以上の企業が協賛。資金や技術・部品、出向など参画形態はさまざまで、自動車業界ではトヨタ自動車をはじめ系列部品メーカーや、独立系の矢崎総業や、小糸製作所、日本精工などが名を連ねている状況だ。
昨年8月25日、カーティベーターのメンバーが中心となって創業したスカイドライブ(福澤知浩代表取締役、東京都新宿区)は、1万平方メートルの屋内飛行試験場を備える豊田テストフィールド(愛知県豊田市)で共同開発した機体の有人飛行試験に成功。23年の実用化に向け、14年の開発当初から目標に置いていた20年夏の有人デモフライトというマイルストーンを達成した。
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大阪府のチャレンジ
このほか東京大学発のテトラ・アビエーション(中井佑社長、東京都文京区)が1人乗り電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発を進めている。昨年2月にアメリカで行われたeVTOLの開発コンペティションで、賞金10万ドル(約1千万円)を獲得。同年8月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究を開始した。
一方、スカイドライブなどに出資するNECは、19年から空飛ぶ車の移動環境に必要な交通整理や機体・地上間の通信などを支える管理基盤の構築を本格化している。取り組みの第1弾として、同年8月に空飛ぶ車での機体管理の機能や飛行特性を把握するために試作機を開発。NEC我孫子事業場(千葉県我孫子市)に新設した実験場で浮上実験を実施して成功させている。
NECはスタートアップの支援に加え、同社が独自に航空・宇宙分野の航空管制システム・衛星運用システムなどで培ってきた管制技術や無線通信技術、無人航空機の飛行制御技術の開発実績と、インフラ分野でのサイバーセキュリティー対策に関する知見で、空飛ぶ車のための新たな移動環境の実現に向けた検討を進めている。
官民連携による「空の移動革命」を目指した取り組みも進む。20年11月17日には大阪府や企業などが参画する「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」が発足した。自治体と企業、行政が連携して次世代の移動・輸送手段である空飛ぶ車の利活用に関して議論する予定だ。ルールや運用方法などを具体的に固め、実現に向けた道筋を国に提案することで、25年ごろの大阪周辺でのサービス実現につなげていく。
発足した同日時点で計41の企業・団体が集まった。経済産業省や国土交通省、25年日本国際博覧会協会など5者もオブザーバーとして議論に加わる。自動車産業からはスバルが参画している。
ラウンドテーブルでは、府内での発着場所や高度の設定など具体的な運用に関する議論を展開する。23年をめどに空飛ぶ車を実装する国のロードマップを踏まえ、国がスムーズに法整備などを進めるための素材を提供することで、大阪での空飛ぶ車の実現を促す構えだ。
空飛ぶ車の実現に当たっては、飛行時間と軽量化の両立など技術的な課題も少なくない。それでも、PwCコンサルティングが20年12月16日にまとめた調査レポート「空飛ぶクルマの産業形成に向けて」によると、空飛ぶ車の国内市場規模は40年には2.5兆円に達すると試算した。
その上で、国内企業が地域ニーズに即して継続的なビジネスとして展開できるエコシステムを構築し、空飛ぶクルマに対する社会受容性を醸成していくためには、「機体やインフラ、航空管制などをシステムとして包括的取りまとめ、社会実装を担うシステムインテグレ-ションの司令塔(インテグレーター)が生まれることが必要になる」と指摘している。
技術革新である空飛ぶ車を活用して、交通や観光、物流、生活など幅広い分野で地域課題の解決につなげるー。21年以降、地域の生活の質の維持、向上を図るとともに、新ビジネスの創出などの実現を目指す動きが活発化することになりそうだ。