SNSで連携「個人投資家の乱」 米でファンド敗走
ニューヨーク・マンハッタンのゲームストップ店舗=28日(AP)
【ワシントン=塩原永久】米国の株式市場で、交流サイト(SNS)で連携した個人投資家が集中的に買った企業の株価が相次いで急騰し、相場の撹乱(かくらん)要因となっている。投資家らがゲーム感覚で、標的とした投資ファンドの裏をかく投資を繰り返し、ファンドが損失を出す異例の展開も現実になった。混乱を警戒する当局が警告を発し、議会も調査に乗り出すなど波紋が広がっている。
問題の発端は業績が低迷する米ゲーム販売店ゲームストップの株価が1月27日、1日で2倍以上に急騰したことだ。短期売買を繰り返す個人投資家らの買いが集中したとみられ、米証券取引委員会(SEC)は「市場の急激な動きを注視している」と警告した。
個人投資らが注目したのはゲームストップ株の空売りの多さだ。ヘッジファンドなどが株価下落を見越し、空売りで利益を狙っていたとみられるが、個人投資家らはSNSの「レディット」上で同社株の購入などを呼びかけ、投稿が拡散。株価上昇につなげてヘッジファンドなどに損失を与えた。損失計上したファンドには高い運用成績で知られる会社もあった。
こうした個人投資家の一部は、米メディアに「金もうけではなく金持ちを破綻させてやりたい」などと取引の理由を語っている。大手金融機関が牛耳る「ウォール街」を個人投資家が屈服させたとして、業界関係者から「金融界のフランス革命」(米ブルームバーグ通信)との声も出ている。
個人投資家が巨大資金をあやつるファンドをやり込めた背景には、手軽に金融商品の売買ができる投資アプリ「ロビンフッド」などが若者を中心に浸透したことがある。米国では新型コロナウイルスの感染症対策で娯楽が減り、在宅時間が増えたことで、投資アプリの利用者が急増している。
一方、個人投資家の大量の投機的取引が相場を不透明にしているとの警戒感から、前週末1月29日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反落。一方、ゲームストップに続き、映画館大手AMCエンターテインメント・ホールディングスなど一部の銘柄は急騰しており、相場の神経質な動きが続きそうだ。
混乱をさらに助長したのは、ロビンフッドの運営会社が28日、ゲームストップなど一部の急騰銘柄の取引制限を実施したことだ。一方的な措置で損失を受けたとして、利用者が運営会社を提訴。SECも29日、調査開始を表明した。
上院の銀行委員会も公聴会を開き、関係者に証言を求める方針を示している。民主党のオカシオコルテス下院議員は個人投資家の売買だけ止められたのは「許されない」とロビンフッドを批判している。