先端技術に触手の中国 公安庁、情報網広げ阻止 異例の76人増員
2021/5/31 21:31
先端技術情報の獲得を狙い、中国側が大学研究者や企業関係者らに多額の資金を提供するなどして抱き込みを図る事件が日米で相次いでいる。技術情報の海外流出を「経済安全保障上の危機」と捉える公安調査庁は全国で情報網を拡大、巧妙化する中国側の接触について背景を個別に分析し、不審な動きをあぶり出したい考えだ。
米司法当局は昨年1月、中国政府の人材獲得政策「千人計画」に参加し、中国側から金銭を支給されていたのに収入を虚偽申告していたとして、ナノテクノロジー分野で著名だったハーバード大教授を訴追。今年1月には、中国側からの約2900万ドル(約30億円)の資金提供を隠し、米エネルギー省の研究費をだまし取ったなどとして、マサチューセッツ工科大(MIT)の教授を訴追するなど、中国側とのつながりが浮上した研究者らの摘発が続く。
日本でも京都府警が令和元年、電子部品メーカーの技術情報を中国に持ち出したとして元社員を逮捕。積水化学工業の技術情報を中国企業にメールで送ったとして、大阪府警が昨年10月、元社員を書類送検するなど事件が相次いでいる。
公安関係者によると、こうした事件では研究者や企業関係者に対し、留学生の派遣や共同研究の持ち掛けなど「一見すると合法的な形で接触が図られる」という。技術情報などの流出は大量破壊兵器の研究・開発に転用される懸念もあり、日本も対策を本格化させようと、公安庁は今年2月、長官・次長直轄で調査官ら約20人が所属する「経済安全保障関連調査プロジェクト・チーム」を発足させた。
全国の企業や大学、研究機関に対し、海外から留学生や研究者の派遣があった場合、チームでは母国での経歴を詳しく調べ、軍への所属歴がないかなどを分析。海外企業から国内の先端企業に対する投資や、技術開発に携わる人材へのリクルートがあった場合にも、海外企業側に国家機関が関与していないかなどを解明し、官邸や関係各省庁に情報を提供する。
また、全国で情報収集を拡大させる必要があるとして、公安庁では情報技術の専門知識を持った人材を中心に調査官も募集。今年度中に76人を増員して各地に配置する予定だ。来年度以降も情報収集に向けた体制整備を継続する。
公安庁幹部は「経済安保分野に対する危機感の高まりから、近年では異例の増員幅となった。情報収集体制を強化し、日本の『富』である技術情報の流出を防ぎたい」としている。