中国と台湾のTPP加入 参加国や米国で温度差
産経ニュース / 2021年10月20日 19時42分
【シンガポール=森浩、ニューヨーク=平田雄介】中国と台湾が相次いで環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加入を申請したことを受け、参加11カ国の判断が注目されている。加入には参加国による全会一致の承認が必要だが、中国をめぐる姿勢に温度差がある。米国はTPP不参加国ながら中国阻止に動く可能性もあり、一連の交渉は米中対立が反映される展開ともなりそうだ。
中国の申請に対して、東南アジアの複数のTPP参加国は比較的前向きな反応を示している。関税撤廃で貿易活発化への期待感があるほか、中国が各国に対して展開したロビー活動が奏功しているという側面もありそうだ。
マレーシアは9月の声明で、中国の加入で「2国間の貿易や投資が一段と高みに達する」と期待を寄せた。南シナ海の領有権をめぐって中国と対立するベトナムも経済的な連携を期待し、「経験や情報を共有する用意がある」と前向きな姿勢を見せている。
加入交渉をめぐっては議長国の態度も重要だ。中国外務省によると、来年の議長国シンガポールも中国の加入申請に「支持」を表明したという。
中国と対立が深まるオーストラリアは慎重姿勢をあらわにする。豪州が昨年、新型コロナウイルスの発生源について第三者による調査を求めたことを契機に、中国は豪州産品に高関税を課す事実上の報復措置を取った。
テハン貿易相は中国の加入申請について、貿易自由化などで「高い水準」を満たす必要があるとの原則を強調。TPPをめぐる交渉より前に、「(2国間の)閣僚級協議で解決すべき重要な問題がある」と述べた。
南北アメリカ大陸のTPP参加国では、ペルーとチリが巨大経済圏構想「一帯一路」に賛同して中国の影響力が強まっている一方、メキシコとカナダは最大の貿易相手国である米国と関係が深い。
中国外務省によると、チリはアラマン外相が中国加入に支持を表明した。一方、メキシコは「迅速に対応し、他国と協調して取り組む」とし、カナダも「新規加入の決定はあくまで加入国による協議次第」と慎重姿勢を示している。
注目されるのが、米国の動向だ。昨年7月発効の通商協定「米国・メキシコ・カナダ協定」には、いずれかの国が「非市場経済国」と自由貿易協定(FTA)を締結した場合、同協定が解消されるとの項目がある。米国はこの取り決めを持ち出し、両国に中国のTPP加入阻止を働きかける可能性がある。
米国務省のプライス報道官は中国加入をめぐって、「非市場的な貿易慣行が考慮されるだろう」と述べ、参加国に慎重な判断を促す立場を示唆した。台湾については「民主主義の価値を信奉している」と指摘し、加入にふさわしいとする立場を表明。各国の思惑が交錯し、中台のTPP参加をめぐる議論は長期化する可能性がある。