今日のITインフラは“宝の山” キンドリルが狙うビジネスチャンス

キンドリルは事業戦略説明会を開催し、1年を振り返りつつ2022年9月に発表したソリューション「Kyndryl Bridge」でITインフラの運用管理がどのように変化するのかを事例を交えて紹介した。

[指田昌夫ITmedia]

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 ミッションクリティカルなシステムの運用を効率化し、ITインフラを変革することはデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で必要不可欠なテーマだ。しかし、コストやリソースの問題からこれを進めるのは困難なケースもある。

 ITインフラのモダナイズを支援するキンドリルジャパン(以下、キンドリル)は2022年11月30日、オンラインで事業戦略説明会を開催した。本稿はその様子をレポートし、キンドリルが提唱する解決策を紹介する。

発足1年で事業は堅調に推移 なぜ今キンドリルが求められるのか

 はじめに、キンドリルの上坂貴志氏(代表取締役社長)が登壇し、2021年にIBMのインフラサービス部門から独立して発足したキンドリルの業績が1年で順調に推移していることを説明した。

キンドリルの上坂貴志氏

 上坂氏は「キンドリルは『社会成長の生命線』というビジョンを掲げて活動を開始した。経営にとってITの重要性が日増しに高まる中で、当社が担当するインフラストラクチャサービスやシステム運用サービスは社会の基盤であることを強く認識した1年だった」と振り返る。

 キンドリルの会計年度は4月から3月で、前年度の実績は2%の成長という堅調さを示した。長引くコロナ禍で企業は働き方を変える必要に迫られている一方、DXの推進にも力を入れていかなければいけない。これらの課題を克服するには、強固で合理的なITインフラが必要だと考えており、同社に対して多くの相談が寄せられている。

 キンドリルは現在「クラウド」「メインフレーム」「セキュリティ&レジリエンシー」「デジタルワークプレース」「アプリケーションデータ&AI(人工知能)」「ネットワーク&エッジ」という6つの技術的な重点領域を設定している。


キンドリルの6つの技術的な重点領域(出典:キンドリル提供資料)

 このうち最もビジネスのボリュームとして大きいのがクラウドだ。また、クラウド利用が進むことでセキュリティやレジエリエンシーにも関心が向き、データ活用についても取り組みが広がっている。デジタルワークプレースは、シンクライアントの導入やリモート環境のヘルプデスク、カスタマーデスクの設置などの引き合いが多く、6つの領域の中で最も成長している。

 上坂氏は「ITインフラに関わるビジネスは、企業から管理業務を請け負うアウトソーシングの形態から、イノベーションの創出を担うパートナーとしての役割に変化してきている。デジタル活用やデータ活用は、インフラ領域にまで踏み込んだ変革を迫っている。これに対応するためのアドバイザリー&実装サービス(A&IS)が非常に好調で、前年比10%以上の成長を続けている」と語る。

 上坂氏によれば、意欲的な顧客はインフラをアーキテクチャからすぐに変えようという機運が高まっているが、さまざまな事情から従来の延長線上でもう1回システムを更新して、次の段階までに準備をして大規模な変革をしたい企業もある。「キンドリルは中長期契約に基づいて、顧客のインフラの安定運用を担いながら変革を支援する」(同氏)

今日のITインフラには“宝の山”が眠っている

 上坂氏は次に、日本企業のIT運用における課題について説明した。これらは実際の企業で起こっている問題だという。

 「1万件のバッチ処理を10人のオペレーターが毎晩監視している業務がある。あるいは膨大な数のセキュリティパッチの情報を表計算ソフトで管理していたり、毎月1500台のサーバにログインして、10日がかりで月次報告書を作成したりするようなことも日常的に起きている」(上坂氏)

 また、ITのための購買申請書などはデータで管理していても、承認のためにわざわざ印刷してはんこを押すような手続きが残っていたり、障害が発生した際に慌てて過去事例を検索して対処法を確認したりするといった、時間がかかる対応が各所にみられる。

 上坂氏は「今日の堅牢(けんろう)なITインフラは、こうした人の手による作業の上に成り立っている。現状は何とか回っていても、3年先や5年先のことを考えれば、今から抜本的な業務変革を始めなければいけない。これは当社から見れば、大きな市場という“宝の山”が眠っていることを意味する」と話す。

 キンドリルはこうした問題を解決するために、新たなIT管理プラットフォームである「Kyndryl Bridge」を開発した。「Kyndryl Bridgeは、今後システムが増加してより複雑になっても、顧客が安心、安全にDXに取り組めるように、IT運用の効率化とコスト削減を支えるプラットフォームだ。グローバルに展開するソリューションだが、日本企業が最も恩恵を受けられると考えている」(上坂氏)

ITインフラ運用を見える化、自動化する「Kyndryl Bridge」

 Kyndryl Bridgeは、IT運用プロセスをデジタル化するソフトウェアであり、プラットフォームでもある。その機能について、同社の澤橋松王氏(執行役員 最高技術責任者(CTO) 兼 最高情報セキュリティ責任者(CISO))が説明した。

キンドリルの澤橋松王氏

 澤橋氏は「IT運用の現場はアナログ業務が多く残っており、かつて、駅の改札で係員が切符を手で切っていた状況に似ている。今では駅が自動改札になったように、Kyndryl Bridgeによって運用プロセスを自動化することを目指している」と語る。

 Kyndryl Bridgeは、顧客企業の既存のIT環境にプラスして利用する。データセンターやクラウド、ネットワークといったIT資源にアクセスし、監視アラート、イベント情報、クラウドのインシデント情報、障害情報を取り込んでいく。さらに、IT部門が手動で登録している各インフラの管理情報もデータとして保存できる。


Kyndryl Bridgeの全体イメージ(出典:キンドリル提供資料)

 ダッシュボードではオンプレミスやクラウドを問わず、企業が運用している全てのシステムの課金情報や構成管理(インベントリー)情報を取得し、構造化して監視できる。

 「ヘルスインジケーター」は、取得したデータから自社のITシステムの稼働状況をまとめて表示する機能で、障害が起きているアプリケーションをドリルダウンしていくと、どのサーバのストレージが故障しているかなどを確認できる。「今まではアラートが出ていなくても本当に稼働が問題ないかは、調べてみないと分からなかった。Kyndryl Bridgeによって全ての稼働状況が可視化できる」(澤橋氏)


Kyndryl Bridgeの利用イメージ(出典:キンドリル提供資料)

 Kyndryl Bridgeが単なるIT資産管理ソフトと異なるのは、グローバルなプラットフォームである点だ。自社のIT資産や稼働状況を見える化するだけでなく、キンドリルが全世界の企業のITインフラ構築で培ったノウハウを生かし、IT管理者を支援する数々の機能が備わっている。

 「Kyndryl Bridgeの自動化プロセスによって、IT部門の人材を単純業務から開放し、より付加価値の高い業務にシフトできる」(澤橋氏)

 取り込んだデータはKyndryl Bridgeのグローバルなデータレイクに保存され、キンドリルが長年蓄積した運用知見で学習されたAIによって分析される。その上で、管理者に対して「今これをすべき」というアクションを提示する。

 具体例を挙げると、ストレージのディスク容量が100%になるというときに、利用状況や過去の対応の記録に基づいて、いつまでに交換すればいいかを管理者に通知するなどがある。ポイントはシステムがアラートを出す前に、予測に基づいて管理者にアクションを促すことだ。「従来のしきい値管理は、アラートが出てから慌てて交換する受け身の対応だった。Kyndryl Bridgeは変化の兆しを受けて先回りして行動し、障害を未然に防ぐ」(澤橋氏)

 実際にアクションを起こす際、プラットフォーム上には数多くの自動化プロセスが「プレイブック」として登録されており、これを呼び出して実行することで、インフラ管理の作業時間を大幅に短縮可能だ。

 プレイブックは5000を超える数が格納されており、世界で月間2000万回以上利用されている。自動化手順は「Ansible」のデータとして公開されているが、RPAなど他の自動化ツールとの連携できるインタフェースを用意している。


Kyndryl Bridgeの4つの特徴(出典:キンドリル提供資料)

IT運用業務の人的コストを85%削減

 澤橋氏によれば、Kyndryl Bridgeを先行して導入したパイロットユーザーの間ではIT運用の効率化が確認できたという。

 アイルランドの電力会社Bord Gáis Energyは、セキュリティを含む全てのインシデントの40%が自動的に解決するようになった。またブラジルの食品メーカーであるBrasil Foodsは、IT利用の部門別コストを計算するために、費用を分配していたが、そのコストを85%削減した。Kyndryl Bridgeはこのように、人が関わることで発生する運用コストを大幅に低減し、業務の効率化を推進する。

 澤橋氏は上記に加え「Kyndryl Bridgeによって、IT運用の組織体制も変革される」と話す。従来の運用担当者はサーバやネットワークといったハードウェアを管理する必要があったが、Kyndryl Bridgeというソフトウェアが運用対象に変わる。

 「ログを分析する際に、サーバを直接見る必要はなくなり、Kyndryl Bridgeのデータレイクに取り込まれているログを見ればいい。サーバの数が増えても、インフラ管理者を比例して増やす必要はなくなるため、少数精鋭のエンジニアでシステム全体を運用できるようになる。Kyndryl BridgeはIT運用の世界を変えると確信している」(澤橋氏)

 キンドリルは現在、Kyndryl Bridgeの管理スキルを持ったエンジニアの教育を進めており顧客企業にも育成のノウハウを提供している。

 上坂氏は最後に「キンドリルはKyndryl Bridgeなどのグローバル標準技術を用いたソリューションと、ミッションクリティカルな現行システムを熟知した人材の力で、顧客のITインフラの未来を共に作っていきたい」と語った。

 企業がDXを推進する際の土台となるITインフラが、極めてアナログな業務で維持管理されているというのは大いなる矛盾だ。この不都合な事実を解消したい企業にとって、キンドリルのサービスは検討する価値がありそうだ。

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