生成AIによってエンジニアの働き方はどう変わる? 生成AI活用事例を基にAIとの協働を考える(前編):本当に仕事が奪われちゃう私たちが考える、AI革命時代の働き方(2)

AIに仕事が奪われることをネガティブに捉えるのでなく、AIとどのように仕事に取り組んでいくのか、AIにどこまでやってもらえるかを前向きに考えていく本連載。AI技術とエンジニアがどのように協働すれば効率的かつ革新的な開発ができるかをテーマに、2回に分けて考察する。前編となる第2回は、AIが既存のエンジニアの仕事をどう効率化しているかについて。

[山本覚,電通デジタル]

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 近年、生成AI(人工知能)技術が大きな発展を遂げており、今後もその勢いは続くことが予想されます。生成AIは、さまざまな分野で活用され始めており、特にエンジニアリングの世界に大きな変革をもたらす可能性が期待されています。前後編2回に分けて、生成AIの実用化について概説し、AI技術とエンジニアがどのように協働することで効率的かつ革新的な開発が実現可能になるのかについて考察します。

生成AIの実用化

 産業界では、AI技術によって自動化や効率化が進むことで、より多くの業務が短期間で成果を上げられるようになっています。生成AI技術は、主に自然言語、画像、音声処理などの分野で大きな進歩を遂げており、その活用範囲は幅広いものとなっています。企業はこのような生成AI技術を活用することで、市場に素早く適応し、他社との競争優位を獲得しようとしています。

AIとエンジニアの融合

 これに伴い、エンジニアの協働や開発スタイルも変化が求められています。AI技術とエンジニアリングの融合により、人間が行っていた複雑で繰り返しがある作業を生成AIが担当することによって、手間や時間が削減されます。また、それだけでなく新しい知見や問題解決方法が、AIから提案されることもあります。エンジニアにとって生成AI技術の活用は、チームとして生産性を向上させ、よりインパクトあるアイデアを実現するのに役立ちます。

 エンジニアにとっても、AIを活用した開発には多くのメリットがあります。AIがローレベルなコーディング作業を担当すれば、エンジニアはより創造的な業務に注力できます。また、生成AIとエンジニアが連携することで、新しいアルゴリズムやアーキテクチャを短期間に試行錯誤でき、開発期間の短縮や画期的なアイデアの創出につながるでしょう。

 その一方で、AI技術とエンジニアが協働するには、お互いに理解し合えるコミュニケーションプロトコルの構築が重要です。人間エンジニアがAIの潜在能力を最大限に引き出せるように、AIが人間の意図や行動背景を理解し、最適な提案やサポートが可能になるように仕組みを組み込む必要があります。

 いかに生成AI技術の発展が進もうとも、その技術を活用し、市場で競争力のある製品やサービスを生み出すためには、エンジニアの役割が中心的であり続けることは間違いありません。このような変革期にあって、エンジニアはどのようにして自らのスキルや知識をアップデートし、生成AI技術と協働を進めるべきなのか、今後ますます重要な課題となるでしょう。

エンジニアの既存業務の自動化

 近年の生成AI技術の進展により、エンジニアの業務においても自動化が急速に進んでいます。これにより、短期間でより多くの成果を上げることが可能になり、開発チームの生産性も大幅に向上しています。本章では、具体的にどのような業務が自動化されているのか、その効果やメリットについて解説します。

コードの自動生成

 コーディングはエンジニアリングの基本であり、プログラミング言語を用いてシステムやソフトウェアの機能を実現する作業です。しかし、生成AI技術の進歩により、一部のコーディング作業が自動化されつつあります。例えば、自然言語処理を用いた自動コード生成技術により、人間が書いた仕様書や要求定義書を基に、AIが自動的にコードを生成することができます。これにより、エンジニアはローレベルなコーディング作業から解放され、より高度な設計やアーキテクチャに注力できるようになります。


コードの自動生成のサンプル(ChatGPTのキャプチャー画面)

デバッグの自動化

 デバッグは、ソフトウェア開発の大きな負担となっている業務の一つです。生成AI技術のおかげで自動でバグや問題を検出し、その原因を特定、修正することが可能になりつつあります。これにより、デバッグ作業の時間が大幅に削減され、エンジニアは新機能の開発や他のプロジェクトに充てられる時間が増えます。また、AIが効率的にデバッグを行うことで、エンジニアはより高品質なソフトウェアを提供することができるようになります。

システム構成の自動生成:

 システム設計や構成は、エンジニアが取り組む重要な業務です。しかし、これらの作業も生成AI技術によって効率化されつつあります。AIは、システムの要求に応じて自動的に最適な設計や構成を提案することができます。これにより、エンジニアは概念段階から具体的なシステム設計へと早期に移行でき、開発期間の短縮を実現することが可能となります。また、AIによる自動設計は、新たなアイデアや技術の取り入れを促し、より革新的なシステムの開発を可能にします。


システム構成の自動生成のサンプル(途中まで)(ChatGPTのキャプチャー画面)

 生成AI技術によるエンジニアの業務自動化は開発プロセスを変革し、開発スピードの向上や市場投入期間の短縮などのメリットをもたらします。これにより企業は迅速に市場の変化に対応でき、解放されたエンジニアは創造的な業務へ注力し新たな価値を提供できます。ただし、生成AI技術活用のためにはエンジニア自身がAIと協働するスキル、知識が重要で、自動化業務の品質管理やAIの盲点となるバグ、問題への対処も求められます。

ノーコードでの開発事例

 近年、生成AI技術と相まって、ノーコードやローコード開発が注目を集めています。これにより、エンジニアだけでなく、非エンジニアもソフトウェア開発に関わることができるようになりました。本章では、生成AI技術とノーコード開発を組み合わせることで実現された事例を2つ紹介し、その効果や可能性について解説します。

事例1:Webページの自動生成と効果的なABテスト

 従来、Webページの開発はHTMLやCSSなどのコーディングが必要であり、エンジニアが専門的な知識を持って取り組む必要がありました。しかし、生成AI技術を活用したノーコード開発により、Webページの自動生成が可能となりました。

 例えば、自然言語処理を用いた生成AI技術により、ユーザーが文章でデザインや構成を指定するだけで、AIが瞬時にHTMLやCSSを生成し、Webページのテンプレートを作成できます。これにより、非エンジニアでもWebページの制作が可能となり、開発の効率化やコスト削減を実現しています。

 実際に筆者の所属する電通デジタル社内では、この技術を用いることでABテストの効率に劇的な改善をもたらしました。デザインの方向性が決まれば、直ちに複数のHTMLコードを用意でき、これまで時間と手間がかかっていたABテストが一気にストレスフリーな作業に変わりました。さらには、最良のWebデザインが迅速に選択されることで、クライアント企業の満足もより得られるようになりました。


Webページのソースコード自動生成のサンプル(途中まで)(ChatGPTのキャプチャー画面)


ChatGPTにより自動生成されたソースコードのブラウザ表示

 ただし、生成AIによるWebページ開発には懸念点も存在します。独創的なデザインや特定のビジュアルイメージに沿ったデザインを生成するコードをAIに用意してもらうことは容易ではありません。プロンプト入力においてかなり熟練の技が必要となります。

 生成AIから期待通りの出力を得るためには、適切な指示や条件を設定しなければならず、そのスキル習得には一定の時間がかかるかもしれません。

 生成AI技術を用いたWebページ開発は、効率化やコスト削減に貢献します。一方で、実際に運用する際には、技術の限界や熟練度を理解した上で適切な使い方を考えることが重要です。

事例2:コールセンターシステムの開発

 AI技術とノーコード開発プラットフォームを組み合わせることで、高度なコールセンターシステムの構築が可能となりました。生成AIを用いて自然言語理解(NLU)や会話のロジックを学習、生成し、ノーコード開発プラットフォームを利用して、電話受信から自動応対までのシステムを容易に組み立てることができます。

 ある企業では、この技術を駆使して、わずか2日間でコールセンターを構築した実績もあります。従来であれば数週間かかるはずの作業が、生成AIとノーコード開発プラットフォームの力を借りることで、劇的なスピードで実現されました。

 この事例において、自動応答システムは顧客からの問い合わせを解析し、適切な応答やアクションを提案することができます。非エンジニアでもシステムの設計や改善が可能であり、コールセンター業務の効率化や顧客満足度の向上が期待されています。このような事例からも、生成AIとノーコード開発プラットフォームの効果と可能性が示されています。

 ノーコード開発の導入により、エンジニアにとっても新たな価値が創出されています。従来は手間のかかっていた業務が自動化され、エンジニアはアイデアの実現や高度な技術開発に注力できるようになります。また、非エンジニアも開発に携われることで、より多様な視点や知識がプロジェクトに投入され、革新的なアプリケーションやサービスが生まれることが期待されています。

 しかしながら、ノーコード開発には限界も存在します。例えば、高度な処理やカスタマイズ性が求められる場合は、従来のコーディングが必要となることがあります。また、データセキュリティやプライバシー保護の面でも、ノーコード開発プラットフォームを利用する際には注意が必要です。

 それでも、生成AI技術とノーコード開発の組み合わせにより、開発の効率化やイノベーションの加速が期待されており、多くの業界に大きなインパクトをもたらしています。今後は、生成AI技術の進化に伴って、より多くの業務や産業がノーコード開発の波に乗り、従来の働き方が大きく変革されることが予想されます。

 後編となる次回は、AI技術とエンジニアをテーマに、AIを活用したプロジェクト進行の効率化やAI技術の将来性、その影響について解説します。

著者紹介

山本覚

株式会社電通デジタル 執行役員 データ&AI部門 部門長

東京大学松尾豊教授のもと人工知能(AI)を専攻

AIとビッグデータを活用し、広告の自動生成、視聴率の予測など、多数のマーケティングソリューションを開発。「ワールドビジネスサテライト」「NHK ワールド」など多数メディアに出演。主な著書『売れるロジックの作り方』(宣伝会議)『AI×ビッグデータマーケティング』(マイナビ出版)など。

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生成AIによって変わるエンジニアの働き方 AI×エンジニアの課題と将来を考える(後編)

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