リサーチャーが見たデータ活用大国・中国の「データガバナンス」の現在地:都市OS構想からプライバシーテックまで(1/2 ページ) – ITmedia エンタープライズ

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リサーチャーが見たデータ活用大国・中国の「データガバナンス」の現在地:都市OS構想からプライバシーテックまで(1/2 ページ)

都市OSの実験や巨大プラットフォーマーによるエコシステム構想、国民ID基盤の整備など、データを駆使した事業や公共サービスを次々に打ち出してきた中国。物量を強みとしたデータ活用が目立っていたが、この数年でその方向性を「質」に変えつつあるという。隣国のデータ活用におけるテックトレンドをリサーチャーに聞いた。

[指田昌夫,ITmedia]

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野村総合研究所 未来創発センター 上級コンサルタント 李 智慧氏

 いまや中国は米国と並んで「テックジャイアント」と呼ばれるプラットフォーマーを多数輩出するIT先進国となった。「都市OS」構想や国民IDを基にしたサービス開発、データ取引市場など、先進的な施策が多く、他国に先駆けて実験と改善を繰り返して力を付けている。ITmedia主催のオンラインイベント「ITmedia DX Summit Vol.11」において、野村総合研究所 未来創発センター 上級コンサルタントの李智 慧氏が、「中国のデータ・ガバナンスの現状と事例紹介」と題して講演した。

 李氏は長年にわたり中国のデジタル経済、プラットフォーマー、AI(人工知能)、FinTechなどの調査研究を実施している。2018年に発刊した自著の『チャイナ・イノベーション』(日経BP)は、中国のテックジャイアントの動向をいち早くまとめた書籍として知られている。

 2021年には続編となる『チャイナ・イノベーション2』を発刊。デジタル化が進む中国の状況をアップデートする内容となっている。「本講演では書籍でも紹介した中国の最新デジタル事情を要約し、データガバナンスの状況を紹介していく」と李氏は説明した。

デジタル戦略の転換点は2020年 「量」への全力疾走から「質」へ

 中国におけるデータガバナンスを見る前に、この20年ほどの中国のデジタル施策を振り返ってみよう。

 李氏はまず、中国のデジタル戦略と政策の振り返りから説明した。中国政府は1998年に情報産業部を設立、情報サービスの強化に着手した。その後2006年に「2006-2020年国家情報化発展戦略」を発表。李氏は、これが中国における最初の情報化戦略だったと位置付ける。「情報インフラ、デジタル政府、電子商取引などの基盤を作るための長期戦略を打ち出した」。これ以降、アリババ、テンセントなどの登場で中国はIT大国へと突き進んでいく。

 急速なIT化の進展に伴い、課題も浮き彫りになる。そこで2014年には政府が「 中央ネットワークセキュリティ・情報化指導チーム」を設立し、習近平主席が自らトップに就任した。またこの年、デジタル戦略の実装の場としてスマートシティーの推進を発表している。これを機に、デジタル化の動きが更に加速。ビッグデータの蓄積も進んだ。

 2016年には、国家としてAIを含めた先端技術の整備を推進する政策を打ち出した。「ここから、中国のデジタル化は量的な発展から質的な進化へと転換を図り、データ強国を目指す姿勢を鮮明にした」(李氏)

 そのデータ強国としての方針が変化したのが、2020年だ。

過去の動きを見るとこの数年はデータ強国へのプロセスを順を追って進んできたことが分かる(出典:李氏の発表資料より)

 2020年に中国は「データ要素の市場化配置」を国家戦略と宣言した。「これによりデータは、生産における土地や労働力、資本、技術と並ぶ第5の要素として位置付けられ、その整備と活用を推進することが確認された」(李氏)。ここが、本講演のテーマであるデータガバナンスに大きく影響したトピックだったという。

アリババの本拠地・杭州がスマートシティーとデータ活用の実践場に

 李氏は、2021年から進められている「第14次五カ年計画」に注目する。同計画はデジタル化により生産方式、ライフスタイル、ガバナンスの変革を進め、デジタル経済の優位性を構築する戦略の全体像を明らかにしている。

 「計画にはさまざまなキーワードがあるが、中でも『良好なデジタル生態を構築する』という部分が重要だと思っている。これについて、『データ要素市場』『デジタルガバナンス政策』『サーバーセキュリティ』『サーバー空間運命共同体』という4大エコシステムを構築するとしている。それを支えるのが5GやAIなどの次世代の情報インフラだ」(李氏)

 中国は、デジタル基盤の上でデジタル経済やデジタル政府、デジタル社会を動かし、それをデジタルガバナンスで管理する五位一体の発展を進めようとしている。「デジタルガバナンスを強化することで、安全安心な環境でデータを流通させ、官民一体でデータ活用を進めてデジタル社会の実現を目指している」(李氏)

 その典型的な事例がスマートシティーだ。中国のスマートシティーの特徴は、中央政府がトップダウンで示すグランドデザインに従い、各地域政府が都市を開発する点にある。

トップダウン型のデジタルガバナンス強化(出典:李氏の発表資料より)

市民生活を変える都市OS「City Brain」と国民ID整備

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リサーチャーが見たデータ活用大国・中国の「データガバナンス」の現在地:都市OS構想からプライバシーテックまで(2/2 ページ) – ITmedia エンタープライズ

リサーチャーが見たデータ活用大国・中国の「データガバナンス」の現在地:都市OS構想からプライバシーテックまで(2/2 ページ)

[指田昌夫,ITmedia]

市民生活を変える都市OS「City Brain」と国民ID整備

 中国スマートシティーの事例としてよく知られているのが、アリババの本拠地である杭州だ。同社が開発した「City Brain」という都市OSに、都市インフラを運営する11の部門システムデータを統合。IoTやカメラで車や人流のデータも合流させ、部門、分野横断で連携させることで、交通渋滞などの都市問題を解決しようとしている。

 具体的には、交通事故の情報で都市内の信号を制御し、車の流れをコントロールすることなどで渋滞を緩和する。違法な路上駐車もカメラで検知し、すぐに警察へ通報する。杭州の交通渋滞は、かつて中国全土でワースト3位だったが、都市OS導入後は57位まで改善した。

 「都市OSは現在バージョン3.0まで進化しており、交通問題だけでなく、医療や観光など48の応用シーンに広がっている。市民がアプリから救急車を呼んで、移送中に過去の医療データを呼び出しておき、病院ですぐに対処できるようにするといった、ビッグデータの活用を目指している」(李氏)

 コロナ禍で感染の有無を確認する「健康コード」の発行も都市OSを活用した。このコードは、アリペイのアプリ開発チームが中心となり、パンデミック発生直後の2020年の2月4日にプロジェクトがスタートした。わずか3日で第1版がリリースされ、1週間後の11日には杭州市全体で運用を開始、29日に全国版の運用も始まった。

 「中国の国民は全員IDによって管理されており、IDを認証できるデータベースが出来上がっている。この認証基盤を含めたデータガバナンスの整備によって、健康コードの全国展開と各種サービスを連携できた」(李氏)

データ取引所が続々開設

 李氏は次に、中国のデータガバナンスの制度設計について説明した。その特徴は、一方的な制限、規制ではなく、制度整備と技術活用によって価値創造を目指している点にあると李氏は指摘する。ちなみに、日本のデータガバナンスはデータ整備と社会実装過程の業務改革をコアにしており、中国の方針とはやや異なっている。

 中国ではデータガバナンス方針の下、国内だけでなくグローバル企業が技術を提供し、データの収集、整理、集約、分析について大規模なサプライチェーンが形成されつつある。「データを可視化、標準化することで、共有できる資源とするための動きが加速している」(李氏)

 データ流通体制の整備も進む。近いところでは2021年3月31日に北京ビッグデータ取引所、同年11月25日には上海データ取引所が相次いで設立された。上海データ取引所の取引開始日には、金融、通信、交通など8分野、20種類のデータ商品が取引された。最初の取引は、中国工商銀行と上海電力の間で行われたという。

 「データ取引所の目的は、いままで政府や公的機関が持っていた公的なデータを、民間企業に流通させることで、社会において価値を発揮することだ」(李氏)

「プライバシーコンピューティング」が進展する

 李氏は最後に、デジタル社会におけるデータガバナンスの課題と解決策を話題にした。中国、そして日本でも、データの価値創出についてはまだ多くの課題があるが、データの有効活用と安全の両立について「プライバシーコンピューティング」が重要になると語る。

プライバシーコンピューティング(出典:李氏の発表資料より)

「元のデータを共有しなくても、そのデータが持つ『価値』を共有する仕組みを作ろうという取り組みが加速している。プライバシーコンピューティングは、元データを動かさずに、特殊なアルゴリズムによって計算した結果だけを利用者に提供する。それによって機密性やプライバシーを保護しながら、データの活用を進められる」(李氏)

 この技術は既に、中国のスマートシティーで医療データの利用時に採用されているという。市が保有する電子カルテなどのデータを、プライバシーコンピューティングに基づくビッグデータプラットフォームに提供し、匿名化したデータを医薬品メーカーが新薬開発に利用する。

 李氏は、今後のデジタル社会の実現に向けては、ルールの整備と先端技術によるイノベーションだけでなく、テクノロジーの活用によるデータ保護が不可欠だと語った。

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