【日本列島BIM改革論:第2回】「業務プロセス改革」を実現せよ:日本列島BIM改革論~建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ~(2)(1/3 ページ) – BUILT

【日本列島BIM改革論:第2回】「業務プロセス改革」を実現せよ:日本列島BIM改革論~建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ~(2)(1/3 ページ)

「日本列島BIM改革論」の連載第2回では、大和ハウス工業在籍時に日本初となるISO 19650-2の認証取得に取り組んだ伊藤久晴氏(現BIMプロセスイノベーション)が、日本列島BIM改革論の重要テーマの1つとして、「業務プロセス改革」がなぜ必要なのかを提言する。

[伊藤久晴(BIMプロセスイノベーション)BUILT]

 建設におけるBIMの国際規格「ISO 19650」に対する関心が、国内でも高まっている。ISO 19650のうち、国内でも既に審査が行われている「ISO 19650-2」は、設計・施工フェーズの“情報マネジメントプロセス”についての規格となる。

 ISO 19650に注目が集まっている理由としては、BIMにおける“プロセス”が規格化されていることにある。日本ではこれまで、従来型の2次元CADを中心とした業務プロセスをBIMツールを置き換えるという方針で、BIMの導入を進めてきたが、それではBIMによる真の成果は得られない。打破するためには、ISO 19650を契機と見なし、業界全体を挙げて「業務プロセス改革」を実現しなければならない。

「ISO 19650」で定義するBIMの本質とは何か?

 最近、日本の建設業界でも周知されてきているBIMの国際規格「ISO 19650」だが、実は正式な名称を知っている方は少ないだろう。正式名称は、「Organization and digitization of information about buildings and civil engineering works,including building information modelling (BIM)-Information management using building information modelling-(ビルディング情報モデリング(BIM)を含む建築及び土木工事に関する情報の統合及びデジタル化-ビルディング情報モデリングを使用する情報マネジメント)」である。言い換えるなら、建築・土木工事の情報を統合またはデジタル化するために、情報をマネジメントしようという規格となる。ここで言う情報とは、設計・施工のためだけに使われるのではなく、維持管理運用やデジタルツイン、デジタルトランスフォーメーションでの活用も視野に入れたものだ。

 現在、英国のBSI(英国規格協会)によって、日本で審査と認証が始まっているISO 19650-2は、「Delivery phase of the assets(設計施工のフェーズ)」であり、設計・施工での情報マネジメントプロセスに対するISOの規格にあたる。

 ISO 19650-1の3.3.14には、BIMの定義が明記されている。引用するとビルディング情報モデリング(BIM)とは、「意思決定のための信頼できる基礎を形成する設計・建設及び運用プロセスを容易にするための建設資産の共有デジタル表現の使用」とある。ここで定義している文言はやや難しいが、「意思決定のための信頼できる基礎」「設計・建設及び運用プロセス」、そして「建築資産の共有デジタル表現」を理解できていれば、自ずと読みとれるだろう。

 「意思決定のための信頼できる基礎」についてだが、建物の設計・施工は、設計者や施工者の提出物に対する発注者の意思決定によって進められる。意思決定を確実に計画通りに遂行するための情報のやりとり(情報デリバリーサイクル)が信頼できる基礎でなければならない。続く、「設計・建設及び運用プロセス」とは、設計~施工~維持管理が連携する、本来あるべきBIMプロセスのことを指す。「建築資産の共有デジタル表現」とは、RevitなどのBIMツールで作成される設計・施工・維持管理における構造化された情報のことだ。

 つまり、ISO 19650で定義するBIMとは、「BIMツールなどを使って構造化した建物のデジタル情報により、意思決定における情報デリバリーサイクルによる、設計・施工・維持管理運用のプロセスを構築するもの」と言い換えられる。

 イギリスでは20年かけて、設計・施工・維持管理のプロセスを研究し、BIMツールの機能を活用して、理想的な建設生産プロセスを作ることで、フロントローディングなどの生産性向上と、次の技術に連携できる情報のデジタル化を進めようとしている。そのイギリスが策定したあるべきBIMのプロセスがISO 19650だ。日本では、BIMツールのカスタマイズとか、新しい施工技術の開発とかは進んでいるが、情報作成の基礎となる情報マネジメントプロセスに着目した事例はあまりない。だからこそ、我々はISO 19650に学ぶ部分も多い。


ISO 19650-1、-2の規格書タイトル 出典:BSI「ISO 19650」

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→次ページISO 19650で「設計・施工における情報」はどのように構成されているか?

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【日本列島BIM改革論:第2回】「業務プロセス改革」を実現せよ:日本列島BIM改革論~建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ~(2)(2/3 ページ)

[伊藤久晴(BIMプロセスイノベーション)BUILT]

設計・施工における情報の構造化

 では、ISO 19650で規定している「設計・施工における情報」は、どのように構成されるべきかを考えてみたい。ここでいう情報とは、BIMツールに関連するものだけを指すのではない。設計・施工の成果物として作成される全ての情報が当てはまる。そのため、プロセス改革とは、BIMツールを使う部分を改革するというものではなく、設計・施工のプロセス、つまり仕事の進め方やツール類そのものを変えようとするものである。

 ISO 19650-1の図-1をもとに、私なりの考え方を反映させて下図に示した。設計・施工の情報を、規格・共有技術・情報・ビジネス展開の4階層で表している。


BIMにおける情報の構造について

 上図で、情報の層が構造化データだけではなく、非構造化データが含まれていることに着目してもらいたい。これは、情報というのが単にBIMツールから作られるものだけではなく、設計・施工・維持管理運用に必要な全情報を網羅していることに他ならない。

 構造化データとは、明確に定義された構造によって作成されたデータのことで、プログラムによる自動処理などに対応しているRevitなどのBIMソフトウェアのデータなどを指す。一方、非構造化データとは、明確に定義された構造をもたない不定形なデータであり、コンピュータの自動処理には適さない書類・画像・音声・動画などのデータが対象となる。同様に2次元CADデータも、データベースとの連携ができないので、非構造化データに含まれる。だが、RevitなどのBIMツールによる情報は構造化データのため、UniclassやOmniClassのような建築部位や工法などを体系的に整理した分類コードを採用して、双方をデータベース連携させるべきと理解できる。

 情報の層における将来像として、「ビッグデータ」という記述がある。複数の建物による情報が蓄積され、ビッグデータ化されることを明示している。この言葉の裏側には、建設業が目指すデジタルツインやDXなどは、いきなりできるものではなく、BIMの成熟によって構築された基盤の上に、具現化されているというイメージが表現されている。

 業務プロセスを、企業を越えて共通化してゆくためには、規格が重要である。共通の規格があることで、情報に価値を持たせられる。規格の層では、現状は社内基準だけで対応しているが、効率的な情報交換による情報活用のためには、ISO 19650を中心とした国際規格の適応が必要となる。ゆくゆくは、新しい時代に適した新たな規格が開発されることは容易に予測される。

 このように、BIMの技術を核とした設計・施工の情報を構造化された情報が、情報マネジメントプロセスにより蓄えられ、そこから新しいビジネスモデルを作ることができれば、情報に付加価値がもたらされる。こういった設計・施工の情報の在り方が変わることが新しい時代を創る礎となってゆく。

日本の「BIMの認識」の問題点

 ISO 19650で定義されているBIMを通して、海外でのBIMに対する認識を説明したが、日本ではどのような状況だろうか?

 日本でのBIMは、3次元で設計図・施工図を作成できる便利なツールぐらいとしか考えられていない。従って、情報の構造化や情報マネジメントプロセスへの取り組みは、あまりない。2021年からISO 19650の認証が始まり、やっと情報マネジメントプロセスの重要性に気付く方が、ちらほら現われ始めたというような状態である。このような状況で、BIMを導入している企業の上層部は、まず先にフロントローディングや生産性向上などのメリットの享受を期待してしまう。BIM導入に投資対効果を見込むが、実際にはなかなか目に見える成果は得られない。

 実は、2次元CADからBIMツールへの移行は、体質改善に似ている。あるべき形に対応するために体質を変えようとするもので、本来それ自体に大きな成果を期待するものではない。成果が表れるのは、改善された体質で何をするかということにかかっている。例えるなら生活スタイルの変化であろう。例えば、不規則に毎日1~2回しか食事をとらず、運動不足であった生活習慣を、規則正しい生活スタイルに変え、改善された体質を生かし維持するための新たなライフスタイルを作ってゆくことである。建設業界で置き換えれば、プロセスの改革といえる。つまりBIMツールの導入によって、2次元CADから3次元のBIMツールに変わった「体質」を生かせるように、業務プロセス改革を実現してゆくことである。実現すれば、各段階で非効率なプロセスが解消され、徐々にフロントローディングや生産性向上といった目に見える形で効果が出てくるであろう。

 さらに、人は、体質を変え、ライフスタイルを変えることができれば、この新しい体質とライフスタイルに合った新しい仕事に適応したこれまでとは全く異なるワークスタイルを整えるはず。建設業界でいえば、デジタルツインや建設DXにそれが当たり、より大きな成果につながる。逆に言えば、これまでの体質や業務プロセスを変えずに、建設DXなどに取り組んでも、本質的な問題解決や革新的な変化は起こらず、部分的な作用にとどまってしまう。


BIMの成熟度モデルの簡単な説明と、それを人で例えた例

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→次ページなぜ海外と日本でBIMに対する考え方が違うのか?

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【日本列島BIM改革論:第2回】「業務プロセス改革」を実現せよ:日本列島BIM改革論~建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ~(2)(3/3 ページ)

[伊藤久晴(BIMプロセスイノベーション)BUILT]

海外と日本で異なる「BIMへのアプローチ」

 海外と日本のBIMへのアプローチの違いは、日本がこれまでBIMを導入してきた経緯にも原因があるのではないだろうか。日本では、2次元CADによる設計・施工プロセスが既に出来上がっていて、それ自体に問題があると考えている人は少ない。2次元CADの段階では、海外より、日本の方が「いい建物を作る仕組みや技術」が優っていた。そのため、いい建物を作るためには、プロセスを変えなければならないという海外のアプローチと、その必要性を感じず、BIMは便利なツールであればよいと捉えていた日本では、当然ながら認識の違いが生じてしまう。

 そのため、国内では、2次元CADによる生産プロセスの中で、2次元CADの代わりにRevitなどのBIMツールを利用しようとした。現時点では、BIMツールは2次元CADを代替するだけの仕組みと機能を持つようになってきたので、少しずつBIMツールの活用は進んできている。

 このように日本では、従来の2次元CADのプロセスのままで、2次元CADをRevitなどのBIMツールに置き換えることが、BIM活用であると認識している。日本人の優秀さ故かもしれないが、こうした過信は徐々に次の時代への対応を遅らせているように思う。

国内でのBIM活用に対する認識は、2次元CADの代替ツールという考えがいまだに大半を占める Photo by Pixabay

建設業界でのプロセス改革を進めるために

 日本の建設業界は、BIMやICTの進歩の過程で今まさに岐路に立っている。日本人の優秀さに頼った従来通りの業務プロセスを残すか、新しい技術に適応できるプロセスに変えてゆくかのどちらかを選ばなければならない。いったん、ここで従来通りの業務プロセスを残す選択をしても、いつかは新しいプロセスに変えてゆく必要があるだろう。新技術に対応できるプロセスについては、長年にわたる英国で研究成果として、国際規格にもなったISO 19650を参考にするべきだろう。私は、ISO 19650は日本の業務プロセスの中でも十分活用できるものだとみている。

 業務プロセスの改革は、日本の建設業界全体の問題とするべきで、企業単位での取り組みでは十分とはいえない。取っ掛かりは企業単位で取り組むのだが、最終的には、発注者を含む、設計・施工・維持管理運用に関わる全ての関係者が向き合うことが望ましい。

 本連載「日本列島BIM改革論」の重要テーマの1つに、「日本の建設業界のプロセス改革」を挙げておきたい。プロセス改革が具現化することで、建設業界のデジタル化が進み、情報に新しい価値を生み、その先にこれまで見たことのない新たな世界が無限に広がってゆくであろう。

著者Profile

伊藤 久晴/Hisaharu Ito

BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。

近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。

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