EU離脱のイギリスとの新経済連携協定 日英閣僚協議で大筋合意
2020年9月11日 21時29分英 EU離脱
EU=ヨーロッパ連合から離脱したイギリスとの新たな経済連携協定をめぐる交渉は、11日、茂木外務大臣とトラス国際貿易相による閣僚協議が行われ大筋合意に達しました。
イギリスがEUから離脱したことに伴う、日英の新たなEPA=経済連携協定をめぐり、茂木外務大臣とトラス国際貿易相は、日本時間の11日午後4時からオンライン形式で会談し、大詰めの協議に臨みました。このなかで両閣僚は、一部の農産品の関税水準など、残されていた課題で折り合い、日英交渉は大筋合意に達しました。このあと、茂木大臣は記者会見し「およそ3カ月という異例のスピードで大筋合意することができた。TPP11やEUとのEPA、日米貿易協定に続いて、自由で公正な貿易体制の推進を日本が主導し、成果をあげることができた」と述べました。そのうえで、茂木大臣は「今回、電子商取引をはじめ、EUとのEPAより、先進的かつハイレベルなルールに合意したことで、日英間の貿易投資のさらなる促進につながることが期待される。EUとのEPAで日本が得ていた利益を継続し、イギリスにある日系企業のビジネスの継続性も確保することが可能となる」と意義を強調しました。日英両政府は来年1月1日の発効を目指し、署名を経たうえで、それぞれの国内手続きを急ぐ方針です。
菅官房長官「日英関係強化の重要な基盤」
菅官房長官は、午後の記者会見で「締結すれば、日本とEUの経済連携協定のもと、日本が得ていた利益を継続し、日系企業のビジネスの継続性が確保される。また、高い水準の規律のもと、日英間の貿易や投資のさらなる促進につながると期待される。良好な日英関係をさらに強化し、深化させていくための重要な基盤となる」と述べました。そのうえで、菅官房長官は、国会での承認手続きのための臨時国会の召集の時期を問われ、「新政権が与党と相談して決める」と述べるにとどめました。
英 国際貿易相「すばらしい合意」
日本との経済連携協定が大筋合意に達したことについて、イギリスのトラス国際貿易相は「EU=ヨーロッパ連合と日本との経済連携協定を上回る内容で、すばらしい合意になった。イギリスがEUから離脱したあと、独立した貿易国として結ぶ初めての主要な協定であり、テクノロジーや食品などの分野に大きな利益をもたらすことになる」と述べて、EU離脱後の通商戦略における意義を強調しました。そのうえで、イギリスが目指しているTPP=環太平洋パートナーシップ協定への参加について「日本からはTPPへの参加を支援してもらっており、明確な道筋を作っていきたい。来年初めにも正式に加盟申請の計画を出したい」と述べ、今回の大筋合意が重要なステップになるという認識を示しました。
主な品目の関税は
日本とイギリスの間のEPA=経済連携協定では、去年2月に発効したEU=ヨーロッパ連合とのEPAをおおむね引き継ぐ形で、幅広い品目の関税が撤廃されます。【工業製品】国会での承認などを経て、イギリスのEU離脱の移行期間の期限となることしの年末までに発効した場合、日本からの輸出では、乗用車の関税がEUとの協定と同じく2026年に撤廃されます。ガソリンエンジンやギヤボックスなどの自動車部品では、およそ92%の品目がすでにEUとの協定で撤廃されていて、イギリスとの間でもほぼ同じ水準となります。また、日本製の工業製品として関税撤廃の対象となるためには、一般的には日本製の部品を一定の割合以上使うことが条件となりますが、今回の協定では例外としてEU域内で生産した部品が含まれている場合も関税撤廃の対象となります。例えば、ドイツ製のエンジン部品やフランス製のタイヤなどを使った自動車も、関税撤廃の対象としてみなされるということで、日本の自動車メーカーは部品などの供給網=サプライチェーンを見直す必要はなく、イギリスとのビジネスをこれまでと同様に続けることができるようになります。【農林水産品】日本への輸入では、貿易額ベースで82%の関税がEUとのEPAのもとすでに撤廃または削減されていて、イギリスからの輸入が多いアジやサバなどの水産物を含めてこれがおおむね維持されます。今回の交渉で、イギリスはチーズなどの一部の品目をめぐりEUとの協定にあるような低い関税や無関税での輸入枠をイギリスに対して設けるよう強く要求しましたが、日本は国内産業にとって新たな負担になるなどとして譲りませんでした。イギリスとのEPAは、すでに発効しているEUとのEPAをおおむね引き継ぐ形となっているため、日本の農林水産業には大きな影響は出ないとしています。
電子商取引を対象にしたルールも
また、日英EPAでは、電子商取引を対象にしたルールが設けられました。この中では、両国の間の電子データのやり取りについて原則として禁止または制限しないことに加え、それぞれの国が関税を課さないことを定めています。これは、例えばビジネス上必要な企業間でのデータのやり取りに双方が何らかの規制を設けたり、関税をかけたりはしないということです。また、ソースコードやアルゴリズムといったソフトウエアの設計図について、政府が企業に開示を求めることを禁止しているほか、企業の独自技術や秘匿情報を守るための「暗号」について、政府が企業に開示を求めることも原則として禁じています。これらの内容は、すでに発効しているTPP=環太平洋パートナーシップ協定や、日本とアメリカが結んだ「日米デジタル貿易協定」をモデルとしたものとなっています。中国などを念頭に、国家が企業のデータを恣意(しい)的に管理する動きをけん制することに加え、日英両政府が先進的なモデルを示すことで国際的なルール作りを主導していきたいねらいもあります。
日本自動車工業会 豊田会長「貿易関係強化を期待」
日本とイギリスの新たなEPA=経済連携協定をめぐる交渉が大筋合意に達したことについて、日本自動車工業会の豊田章男会長は「自動車と自動車部品の関税撤廃や、グローバルなサプライチェーンに対応できる原産地規則など、日本とEUの協定と遜色ない高い自由度の内容で大筋合意に達したことで、将来のビジネス環境の予見可能性が確保されることになる。日本とイギリスの貿易、技術、投資関係が一層強化されると期待している」というコメントを発表しました。
イギリス 協定の発効目指す背景は
イギリスが日本との経済連携協定の発効を目指す背景には、アジア太平洋地域との関係強化につなげたいというねらいもあります。イギリスは、ことし1月のEU=ヨーロッパ連合からの離脱を機にEU以外との経済関係をこれまで以上に強めようとしていて、柱の一つがアジア太平洋地域となっています。このため日本との協定を足ががりに、日本が主導するTPP=環太平洋パートナーシップ協定への参加を目指しています。イギリス政府は、TPPについて「世界最大級の自由貿易圏であり、参加することでイギリスは長期にわたる貿易と投資の機会から利益を得ることができる」としていて、今月9日にはTPPに参加する日本など11か国との間でイギリスがTPPに加わることに備えた協議を初めて行っています。一方で、貿易額の半分を占めるEUとの協定締結に向けては、ジョンソン政権がEUとすでに合意している離脱協定の一部をほごにする内容を含む法案を提出したことで双方の溝が一層深まっているうえ、アメリカなどとの協議も順調に進んでおらず、EU離脱後の通商戦略は課題も抱えています。