敵基地攻撃 着地点探る 先制攻撃の誤解避ける狙い

 自衛隊が保有すべき敵基地攻撃をめぐる自民党内の議論では、これまでも「策源地攻撃」や「敵基地反撃」などさまざまに言い換えられてきた。それぞれの概念は何が違うのか。背景を探ると、仮想敵国の能力向上への対処や国内説明に苦心した跡がうかがえる。

 「ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました」

 11日に安倍晋三前首相が発表した談話では「敵基地攻撃能力」との文言は入らなかったが、政府関係者は「『ミサイル阻止』という概念の中に敵基地攻撃能力も含まれる」と解説する。

 自民党ミサイル防衛検討チームは、政府が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア(地上イージス)」配備を断念した6月以降、敵基地攻撃能力のあり方を検討。「相手領域内でも弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有を含めて抑止力向上の新たな取り組みが必要」と提言した。首相談話の「ミサイル阻止」は提言に沿うものだ。

■インフラも対象

 なぜ「敵基地攻撃」と呼ばないのか。検討チーム座長の小野寺五典元防衛相は「『攻撃』『敵基地』というワードが入ると、先制攻撃という間違った印象を持たれる危険性がある」と指摘している。一方で、単に「相手領域内でミサイルを阻止する能力」とすれば、ミサイル発射に関連するインフラなどを攻撃できる余地を残したと解釈できる。

 敵基地攻撃に関連する概念が変化したのは今回だけではない。敵の能力向上に伴い検討が重ねられた。

 政府は昭和31年の国会答弁で、現行憲法でも敵基地攻撃能力の保持を認める立場を取っている。31年当時は「誘導弾の基地をたたくこと」が法理的に自衛の範囲内としていた。

 その後、移動式発射ミサイルが北朝鮮を含む各国に拡散し、もはや攻撃対象は敵国の「基地」のみとはかぎらなくなった。平成25年の自民党提言では直接攻撃にかかわる区域を指す「策源地」を使い、「策源地攻撃能力」と言い換えた。

 安倍氏が地上イージスの配備断念を受けて敵基地攻撃能力の検討に乗り出したのも、北朝鮮や中国がミサイル防衛網を突破できる新型ミサイルを開発していることが念頭にある。

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2020.9.19 22:16政治政策

■先制攻撃の否定

 自民党が29、30の両年にまとめた提言でも「敵基地反撃能力」と言い換えた。これも「攻撃」ではなく「反撃」とすることで、先制攻撃を意図しないことを示す狙いがある。

 ただ、現行憲法下で「先制攻撃」が否定されていると考えるのは誤解だ。国際法上違法なのは「予防攻撃」で、北朝鮮が将来的に日本を攻撃する能力を獲得することを防ぐために行うような攻撃を指す。一方、今にも弾道ミサイルを撃ちそうな差し迫った脅威をたたく「先制攻撃」は昭和31年の国会答弁で認めており、その後の政府もこの解釈を否定していない。

 とはいえ「攻撃」という言葉には拒否反応が根強い。政府は「ミサイル阻止」という考え方で国民の理解を得たい考えだ。(市岡豊大)

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