EUの対中戦略行き詰まり 強気の中国に人権で強く出られず
【パリ=三井美奈】米中対立の陰で、欧州連合(EU)の対中戦略が行き詰まっている。EUは米国のように中国を真正面から攻撃せず、投資や環境の分野で対中協力を模索してきたが、習近平国家主席は14日のEU・中国首脳会談でEUの懐柔策を受け入れなかった。新型コロナウイルス流行後の中国、EU間の力関係の変化も背景にある。
◇人権「封印」も空振り
首脳会談で最大の課題は過去7年、交渉を続けてきた投資協定だった。過去の貿易で中国から技術移転ばかり迫られたEUは情報通信やバイオ産業の市場開放を要求する一方、香港や新疆ウイグル自治区などの人権問題では、「懸念」を表明するのにとどめた。
それでも、習氏は「中国は人権問題の『先生』を受け入れない」と反発し、会談は投資協定の「年内合意」の目標を確認しただけで終わった。EUのミシェル大統領は「われわれは中国に利用されない」といらだちを示した。
◇形勢逆転
EUが第5世代(5G)移動通信システムや人工知能(AI)、エネルギーなど戦略分野で大きく後れをとっていることは交渉上の弱みになっている。
5Gではデンマークやスロベニアが安全保障上の懸念から中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品採用を見送ったが、EUですぐに取って代われる企業は多くない。電気自動車(EV)でも欧州自動車大手は中国企業のバッテリーが頼みだ。中国は技術力でEUを凌駕しつつある。
中国は米国に対抗するため自国産業の育成に熱をあげ、投資協定が目指す市場開放どころか保護主義色を強める。北京の欧州商工会議所は今月、「中国の外資規制は強まり、欧州の競合企業を締め出そうとしている」と懸念を示した。
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◇EU内で批判も
中国は新型コロナ流行後、EUへの態度を変えた。医療用品の不足に苦しんだEUは供給を中国に頼ったが、中国は「感謝せよ」と迫った。これが欧州では居丈高な態度と映り、世論調査で「中国への見方が悪化した」と答えた人はフランスで62%、ドイツで48%にのぼった。
EUは昨年春の対中方針で中国を「競争相手」と位置付けた。米国が離脱したイラン核合意や地球温暖化対策で協力しつつ中国市場の開放で譲歩を狙ったが、出口の見えない戦略を産業界は疑問視する。ドイツ機械工業連盟は「投資協定が年内に合意できない場合、EUは状況を見直すべきだ」と声明で促した。
◇人権制裁法
欧州ではEUが「人権で弱腰」であるとの批判も強まる。フォンデアライエン欧州委員長は16日の演説で、迅速な制裁を可能にするため、「米マグニツキー法の『欧州版』導入に取り組む」と述べた。首脳会談の不調を受け、中国側に圧力をかけようとした。
この法は人権侵害に関わった外国人の資産凍結、渡航禁止などを定め、米政権は香港政府や新疆ウイグル自治区の高官に制裁をかける根拠とした。だが、EU議長国ドイツは制裁に否定的で、「欧州版」実現の見込みは乏しいのが現状だ。